連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 反町は赤堀に話して、三百万円の出所を調べ始めた。
「儀部に聞くのがいちばん早い」
 反町が言うと、赤堀は顔をそむけた。
 すでに三百万の存在は儀部に分かっているはずだが、直接聞くことを躊躇(ためら)うのは優子のことを考えてか。
「いやなのか。優子が儀部の金を勝手に持ち出したとも考えられる」
「札束の帯は無印だ。優子が自分の金を引き出した可能性もある」
「ハンドバッグにカードか通帳が入っているだろ。銀行を当たったほうがいい。一日の引き出し額はカードで五十万、通帳だと限度はない」
 反町は親泊に電話した。
「優子のハンドバッグの中身の記録は取ってるんだろ。銀行のカードか預金通帳と印鑑はなかったか」
〈カードだけです。通帳や印鑑があれば、家族に渡しています〉
 親泊が今更どうかしたのか、という口調で言う。
〈三百万のことですか。我々も不審に思ってて、儀部に直接聞きました。儀部の家では、その程度の金は当主の妻であれば、自由に扱えるそうです。なんの不思議もないとの答えです〉
 親泊の声が心なしか低くなった。

 昼になってから、儀部が博多から帰ってきた。朝一番の飛行機で戻るはずだったが、午後になったのだ。
 優子は容態が安定しているということで、集中治療室から個室に移されていた。
 儀部は次男の敏之が運転する車でやってきた。那覇空港から直接病院に来たという。
 連絡を受けた赤堀が反町を誘って病室で待っていた。他に所轄の比嘉と親泊がいる。
 儀部は車椅子に乗り、敏之が押して病室に入ってきた。一年近く会っていないが、見間違うほどにやつれていた。彼は六十九歳のはずだが八十代にも見えた。
「赤堀さん、優子はどんな具合だ」
 赤堀は答えず脇によけた。儀部の車椅子がベッドに近づいていく。
 優子は複数のチューブにつながれ、眠っている。
 車椅子から立ち上がろうと、儀部がベッドの手すりをつかんだ。その瞬間、儀部の身体が傾いた。敏之が支える。儀部は立ち上がるのをあきらめ、車椅子に身体を沈めた。
 儀部はベッドの手すりの隙間から手を伸ばし、優子の頬を撫でている。その土気色の手はシミと皴(しわ)に覆われ、枯れ枝のようだった。
 その様子を赤堀が無言で見ている。
「誰がこんなことを。早く犯人を捕まえてくれ。わしにできることは何でもする」
 儀部が刑事たちに顔を向け、震える声で訴えた。顔は青ざめ、目は充血して潤んでいる。反町の背筋に冷たいものが流れた。どこか異様なものを感じたのだ。
 横では敏之が表情のない顔で立っていた。
「現在、捜査中です。逮捕までそんなに長くはかかりません」
 赤堀が比嘉に捜査状況を説明するように言った。
「引ったくりの線で捜査しています。ここ半年余りに、似たような手口の引ったくりが六件起きています。周辺の防犯カメラの映像を調べて、不審者を洗い出しています」
 比嘉は儀部とは初対面だが、彼のことは知っている。
「わしに協力できることは何でも言ってくれ」
 儀部が刑事たちに向かって丁寧に頭を下げた。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
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第一章 真実の行方