連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 県警本部に戻る車の中で、反町は赤堀に言った。
「あの身体じゃ人を襲うなんてのは不可能だ」
「だから彼は関係ないと言っただろ」
「儀部の様子からは、夫婦仲が悪いなんて信じられないぜ。儀部は優子にべたぼれ――いや、異常な執着心を持っている」
「夫婦仲が悪いなんて、僕は言った覚えはないぞ。しかし、執着心は当たってる。しかも異常だ」
「一方的な儀部の愛か。それをいいことに、優子は息子とできてたってわけか」
「そういう発想しかしないのか」
 赤堀が軽蔑のこもった視線を反町に向ける。優子のことになると赤堀も異常に思える。
 ビルの間にゆいレールが走っていくのが見えた。
 何かを考えるようにしばらく無言だった赤堀が口を開いた。
「彰はまとまった金が必要だった。優子を連れて逃げるために」
 また、しばらく黙り込んだ。やがて、覚悟を決めたようにしゃべり始めた。
「彰は儀部にいたぶられ、辱められている優子を憐れんでいるうちに、愛し始めていたんだろうな。優子も儀部とあの家から自分を助け出してくれる人だと思い始めた。しかし、二人とも自分たちの立場を考えると早急には動けなかった。金もなかったしな」
 赤堀が呻(うめ)くように言った。
「儀部は美しい妻をどうしても自分の元においておきたかった。そのために、優子に色々やったらしい。アメとムチというやつだ。口には出せないひどいことや屈辱的なことも」
「それで、彰は儀部の軍用地の権利書と実印を持って家を出たのか。じゃなんで、儀部は彰の告訴を取り下げた。良心の痛みと、世間体のためか」
 赤堀は考え込んでいる。話すべきか――。反町が促そうとしたとき、口を開いた。
「彰が持ち出した土地の権利書など、儀部にとってはごく一部で、取るに足らないモノだ」
 赤堀が息を吐いた。
「持ち出したのは、それだけじゃないらしい。もっと重要なモノもだ。僕はそれについての解決策が、儀部と彰の間で取られたと思ってる。彰がそれで儀部を脅したか、返す約束をしたか。だから告訴を取り下げた」
「そんなものがあるのか」
「僕たちにも分からない。あくまで僕の想像だ」
 赤堀が僕たちというのは、警察庁と検察だ。
「一年間調べて来たが、何なのかは分からない」
 いや、分かってる。反町は口元まで出かかった言葉を呑み込んだ。赤堀が、いや警察庁と検察が追い続けているモノと関係があるはずだ。そうでなければ、これほど儀部親子にこだわらない。
「そうだったのかもしれないと思っている。今となったらね」
 それっきり赤堀は前方を見詰めたまま黙り込んだ。
 車は県警本部の駐車場に入っていく。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
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第一章 真実の行方