連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

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 那覇署は優子が襲われた事件を単なる引ったくり、窃盗事件として捜査していた。
 最初、事件解決に時間はかからないだろうと踏んでいたが、捜査はなかなか進まなかった。被害者、優子の意識が戻らないのも、事件解決の大きな障害だった。
 この数か月の間にもショッピングモールの駐車場や、その近辺でブランド物のバッグを狙った同様の事件が起こっていた。所轄は、那覇の窃盗常習犯やチンピラを中心に調べている。
 反町のスマホが鳴り始めた。
〈犯人が捕まりました。儀部優子の引ったくりの件です〉
 那覇署の親泊だ。
〈安部裕也、二十八歳。ショッピングセンターの裏通りで、三十五歳の女性のハンドバッグを引ったくりましたが、女性に反撃されて逃げました。その折、女性の悲鳴を聞いた警邏(けいら)中の警官が駆け付け、通行人の協力を得て逮捕しました〉
「優子の件も吐いたのか」
〈黙秘しています。背の高い痩せた男、安部は百七十六センチ、ひょろ長い男です。かなりの余罪がありそうなので、そのうち吐くでしょう〉
 親泊は自信を持って話している。
「赤堀には話したのか」
〈これからです。まずは、反町さんと思って〉
 反町は礼を言って電話を切った。
 十分も経たない間に、赤堀からスマホに電話があった。
〈これから、那覇署に連れてってくれ〉
 反町は赤堀を車に乗せて、那覇署に駆け付けた。
 取り調べは始まっていた。
 二人は所轄の刑事に案内され、取調室の隣の部屋に入った。そこにはモニターがあり、隣の取調室が視聴できる。
 取り調べているのは比嘉と親泊だ。
 引ったくり犯の安部はひょろりとした、年より老けて見える男だ。三十前だが、すでに四十代にも見える。生活の乱れからか。
「窃盗の前科のある男です。二年前に刑務所を出て、同様な犯行を繰り返していたんでしょう。余罪が十件以上ありそうです。ここ一年間の同様な事件の大半は、安部の仕業と見ていいようです」
 横にいた所轄の刑事が言う。
 やがて安部がポツリポツリと喋り始めた。
〈けっこうやったよ。しかし、現金を持ってる金持ちは少ないんだよな。ほとんどがカードだもんな。全部捨てた〉
 見かけに反して声と口調の若々しさがアンバランスだった。
〈新都心のショッピングモールでもやったのか〉
〈いろいろやったよ。たかが引ったくりだ。大した罪にはならない〉
〈新都心のショッピングモールの事件は殺人未遂だ〉
 比嘉の言葉に安部の表情が変わった。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
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第一章 真実の行方