連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

〈一昨日の午前十時すぎだ。女が襲われ、殴られた拍子に転んで、頭を打って意識不明だ。被害者が死んだら、窃盗から強盗致死だ。たかが引ったくりなんて思うな。罪の重さは天と地ほど違うぞ。二十年以上は出られない。下手したら無期懲役だ〉
 安部は答えない。不貞腐れたように下を向き、デスクの一点を見つめている。何かを考えているのか。
 赤堀は取り調べの様子を食い入るように見つめている。
 安部がしばらくして顔を上げると、居直ったように喋り始めた。
〈勝手にしろ。どうせ、しばらくは出られないんだ。面白くやろうぜ〉
〈おまえがやったのか〉
〈ああ、やったよ。それがどうした〉
 安部が挑戦的な視線を比嘉に向けている。

 反町は赤堀と那覇署の駐車場に行った。
「これで納得したか。儀部優子は引ったくりの被害者だ」
「どう思う。あの男」
 赤堀が反町に聞いてくる。
「やったって言ったぜ。優子の場合はただの引ったくりじゃない。下手したら、強盗致死になる。良くても強盗傷害だ。それを認めたんだ」
「ただ、目立ちたいだけかもしれん。それとも警察をからかってるのか。公判で否定すればいいことだ。警察の強引な取り調べに負けたとか、誘導に引っかかったとか」
 赤堀が冷静な声で言う。
「なんで、そんな面倒なことをするんだ。警察に恨みでもあるのか。否定できなきゃヤバいだろ。心証も悪くなるし」
「あの男、仕事は」
「運送会社の運転手だ」
「会社の住所は分かるか」
「親泊のメモに書いてある。財布に名刺が入っていたと言ってた」
 反町は親泊からもらったメモ用紙を出した。安部の情報が書いてある。
 赤堀が車に乗り込んだ。
「会社に行く。一昨日の午前十時前後のアリバイを調べる」
「優子の引ったくりは、あいつじゃないと思ってるのか。安部が嘘をついてると」
 反町は運転席に座った。
「あの男、居直る前にしばらく考えていただろ。優子が襲われた時間のアリバイを考えていたんだ。完全なアリバイがあるから、居直った」
「警察をからかってると言うのか」
「面白くやろうぜ。あの野郎が言ってた。あの男、これで三度目だ。かなりパクられ慣れてる。態度もふてぶてしい。弁護士も選任だ。弁護士との付き合いも長い。警察をなめてるんだ。取り調べでいい加減なことを言っても、公判でアリバイを言えばひっくり返る。取り調べがきつかったとか、忘れてたって適当なことを言えばいいからな」
 赤堀の言葉は正しいかもしれない。そんな気がしてきた。やはり準キャリだけのことはある。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
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第一章 真実の行方