連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 運送会社は泊港(とまりこう)の近くにあった。
 事務員は事件当日の勤務記録を出してきた。
「安部さんは本部町(もとぶちょう)に行ってますよ。その日の朝九時に那覇本社を出ています。帰ってきたのは午後三時。間違いありませんね」
 記録を見せながら言った。那覇から本部町までは約八十五キロ、沖縄自動車道を使っても片道一時間三十分以上はかかる。
「本部町に行って、安部が本当に行ったかどうか調べるか」
「所轄に任せる。あいつは警察をからかって面白がっているだけだ。そんなことに時間を使うだけあいつの思う壺だ」
 赤堀が言い切った。
「あの野郎、ぶん殴ってやりたい」
 反町は吐き捨てると親泊に電話して事情を伝えた。
 二人は県警本部に戻った。

 反町は一瞬立ち止まり、息を軽く吸った。
 午後六時すぎ、国際通りは観光客であふれていた。
 およそ一・六キロの通りの両側には土産物店、飲食店が軒を連ねる。県内一の観光通りだ。中ほどには公設市場もあり、住民も含めて人でにぎわう。
 聞こえてくるのは日本語の他に中国語、韓国語、そして英語が混ざる。中国人が多く、両手にいくつもの紙袋を持った子供連れの団体は大抵そうだ。立ち並ぶ店の従業員にも中国人が多い。
 反町は観光客の間を縫うようにして足を速めた。
 店に入ると、奥の席で赤堀が反町のほうを見ている。横ではノエルがルートビア(ノンアルコールの炭酸飲料)を飲んでいた。
「おまえの言うとおりだった。親泊に運送会社のことを伝えて、詳しく調べさせた。親泊が本部町の会社に行って写真を見せて確かめた。そこの防犯カメラにもバッチリ映っている。優子が襲われた時間だ。安部もアリバイを認めた。比嘉が安部を殴りそうになったんで、親泊が止めたそうだ。俺だったら、一緒になってボコボコにしてるよ」
 反町は赤堀に言って、ノエルに安部の話をした。
「優子さんの事件は、まだ犯人の目途も立たないの。あの辺り、最近引ったくりが何件かあったって聞いた。アメリカ人の女の子も被害にあってる。そっちは安部なのかしら」
「優子の事件は強盗傷害だ。引ったくりなんかじゃない」
 赤堀が念を押すように言う。
「優子さん、まだ意識が戻っていないものね。死なないとしても、このまま意識が戻らなかったら――」
 赤堀の顔を見て、ノエルは途中で言葉を止めた。植物状態だと言いたかったのか。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
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第一章 真実の行方