連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

「俺も引ったくりなんかじゃないと思う」
 反町も確信を込めて言う。
「何か新しいことが出たの?」
「刑事の勘だ」
 具志堅がよく使う言葉だ。最近、その言葉が違和感なく自分の口から出るので、驚いている。
「無責任な言葉ね。なんの根拠もない」
 反町も最初はそう思っていた。しかし、具志堅と一緒に捜査をしていると、そういうのもアリかなと思えることが何度かあった。豊富な経験に基づく合理的な推理というだけでは説明のつかないこともある。
「優子の持ち物は見たか」
 反町はノエルに視線を向けた。
「一応調べたけど、おかしなものはなかった。三百万円の札束以外はね。ごく普通の女性の持ち物ばかり。ただしお金持ちのね。化粧品なんか、口紅一本で私の一年分の化粧品代じゃないの」
「今どこにある」
「病院。彼女の病室のロッカー」
「家族が来たのは――」
 赤堀がノエルに問いかけた。
「病院に担ぎ込まれた日。家に電話するとすぐに息子が来た。儀部の次男、敏之よ」
「俺は会わなかったぞ」
「ドクターに会って様子を聞いてすぐに帰ったもの。連絡しなきゃならないからって。息子と言っても、優子さんにとっては義理の息子だけど。私、あの人嫌い。何考えてるか分からない顔をしている」
 こう露骨に言うのは、ノエルにしては珍しい。
 反町は敏之の姿を思い浮かべた。何を考えているのか分からない。確かにそのとおりだ。能面のように無表情で、細い眼は陰湿ささえ感じる。
「ハンドバッグを渡して、お金と貴重品は持ち帰るように言った。ハンドバッグは病院に置いておくようにって。目覚めたとき、化粧品は必要でしょ」
「何かなくなったものはないか」
「知るわけないでしょ。チェックなんてしてない。二人は義理とはいえ、親子なのよ」
「三十二歳の母親に二十三歳の息子か。優子が九歳のときの子ってわけか」
「やめなさい。趣味が悪いわよ」
 ノエルが反町を睨む。反町は反論できなかった。しかし、そうも言っていられない。彰と優子の関係が続いていれば。彰はどこだ。反町はかろうじて、その言葉を呑み込んだ。
 赤堀の真剣そのものといった表情がそうさせたのだ。



         10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
 
〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
詳しくは BOOK NAVIへ
Back number
第一章 真実の行方