連載
浮世奉行と三悪人
第四話 抜け雀の巻2 田中啓文 Hirofumi Tanaka

「考えようによっては、もし貞飯さんが浮気をしているなら、これで別れられたわけですから……」
 まさは切れた。
「アホなこと言わんとってちょうだい! あのひとがおらんかったらわても死ぬ! ここで喉突いて死ぬ!」
「いや、ここではやめてほし……」
「だいたいあんたのせいなんやで! あんたを横町奉行と見込んでわてらの相談ごとを持ち込んだのに、夫婦喧嘩は扱わん……て杓子定規(しゃくしじょうぎ)なこと言うからこうなったんや。どないしてくれるの。わてはあんたに一言文句言いたい思て来てるんや」
「せやから、おかん、雀丸さんが迷惑してはるからやめてや」
「辰ちゃん、なに言うてんの。もしおかんとおとんが夫婦別れしたらあんたどないするつもり? それもみな、この横町奉行が悪いんやからな」
「あのですね、おまささん……」
「雀さん、今すぐうちのひとを探し出して、あの女から取り返してきてんか」
 無茶である。
「横町奉行はそういう職やないんです。何遍言うたらわかってくれるんですか」
 雀丸がそう言ったとき、
「雀丸さん、このひとを助けてあげてください」
 雀丸は驚いて園を見た。まさも驚いたようで、ぽかんと園の丸顔を見つめている。園は続けた。
「ご亭主に隠しごとをされるなんて悲しすぎます。きっとまだおふたりには話し合う余地が残っていると思います。ちゃんと話をしておたがいの思い違いを解けば、ちがった道もあるはずです。たとえ役目から外れていようと、一旦は横町奉行に持ち込まれて、雀丸さんも関わった案件です。こじれてしまった糸をほぐすのは、横町奉行のお務めではないでしょうか」
「ええーっ! それはちがうと……」
「ヒナもそうだと言ってますよ。ほら……」
「にゃー」
 雀丸は深い深いため息をつき、
「わかりました。貞飯さんを探します。探せばいいんでしょう」
「やったー。よかったですね。雀丸さんに任せておけばきっとなんとかなりますよ」
「そ、そやなあ。ほな、雀さん、よろしゅうお頼み申します」
 辰吉も、
「雀丸さん、おとんのことよろしゅうお頼み申します」
「にゃー」
 どうやらやるしかないようだ。
(まあ、地雷屋蟇五郎さんに会えば、なにかはわかるだろう……)
 そう思った雀丸が、
「引き受けたうえは、きっちりやらせてもらいます。私の役目は、貞飯さんの居場所をつきとめて、おまささんのところに連れて帰ること。そこからあとは夫婦の話し合いでなんとかしてください。いいですね」
 まさはうなずいて、頭を下げた。



      7   10 11 12 13 14 15 16 17 18 次へ
 
〈プロフィール〉
田中啓文(たなか・ひろふみ)
1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。
93年「凶の戦士」で第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選、ジャズミステリ短編「落下する縁」で「鮎川哲也の本格推理」に入選しデビュー。
2002年『銀河帝国の弘法も筆の誤り』で第33回星雲賞日本短編部門、09年短編「渋い夢」で第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
『水霊(ミズチ)』『辛い飴』『チュウは忠臣蔵のチュウ』等、著書多数。
Back number
第五話 俳諧でひと儲けの巻3
第五話 俳諧でひと儲けの巻2
第五話 俳諧でひと儲けの巻
第四話 抜け雀の巻3
第四話 抜け雀の巻3
第四話 抜け雀の巻2
第四話 抜け雀の巻