連載
浮世奉行と三悪人
第四話 抜け雀の巻2 田中啓文 Hirofumi Tanaka

「せやけど、どうやって……」
「こういうときこそあのひとたちに働いてもらいましょう。――角兵衛さん、少し遠いので恐縮ですが、口縄坂(くちなわざか)に一家を構えておられる鬼御前(おにごぜん)さんという女侠客(おんなきょうかく)のところに行ってくださいませんか。事情を話して、すぐに来てほしい、と雀丸が言っている、と伝えてください」
「お、女侠客? そんなおとろしいひと、わてのテコに合いますやろか」
「四天王寺(してんのうじ)は遠いので、角兵衛さんにお願いしたいのです」
「よろしゅおます。わても男や。みんごとそのお方をここまで引っ張ってまいりまっさ!」
 言うが早いか、角兵衛は尻端折(しりはしょ)りをして鉄砲玉のように飛び出していった。
「もうひとりは私がじかに談判してきます。――ほかの皆さんは一旦それぞれの家に引き取ってください。また、だんどりが整い次第お声掛けをいたします」
 まさが、
「雀さん、地雷屋はんのことも大事やけど、わてとこの一件も忘れんとってや」
「わかってます。貞飯さんもお探しします」
 皆がそれぞれ竹光屋を出て行った。最後まで残った園はヒナを抱きかかえると、
「では私もこれにて失礼いたしますが、雀丸さま、私が気を失っていたのはどれほどでしたか」
「そうですねえ……ほんのわずかです。線香半分が燃えるほどのあいだでした」
 園は加似江に向き直り、
「ご隠居さま……」
 急に声を掛けられた加似江は、
「む、なんじゃ」
「そのようなわずかなあいだに、よもぎ餅を食されたのですね」
「な、なぜわかった」
「口の端に白い粉がついております」
 加似江は弾かれたように指で唇をこすり、
「すまぬ。七人になったので、だれかひとりが食えぬことになる。困ったのう、と思うていると、おまえさんが気を失うたのでな、ああ、これでひとり一個になった、と……」
「まあ、ひどうございます。ひとが倒れているすきに……」
「ははは、すまぬすまぬ。なれど、わしだけではないぞ。皆、一個ずつ食うたのじゃ」
 雀丸が、
「お祖母さまが、それ、今のうちじゃ、早(はよ)う食え、と皆を急かしたからではありませんか。大事ない、ただの気のぼせじゃ。水でも飲ませればすぐに気がつく、とか申されて……おかげで喉に詰まりました」
「皆さん、冷たすぎです。つぎはまたよもぎ餅を持参して、私ひとりで食べてさしあげます」
「それでは土産(みやげ)にならぬではないか」
 どうも妙なところで気が合っている様子だ。



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〈プロフィール〉
田中啓文(たなか・ひろふみ)
1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。
93年「凶の戦士」で第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選、ジャズミステリ短編「落下する縁」で「鮎川哲也の本格推理」に入選しデビュー。
2002年『銀河帝国の弘法も筆の誤り』で第33回星雲賞日本短編部門、09年短編「渋い夢」で第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
『水霊(ミズチ)』『辛い飴』『チュウは忠臣蔵のチュウ』等、著書多数。
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