連載
浮世奉行と三悪人
第四話 抜け雀の巻3 田中啓文 Hirofumi Tanaka

「どうしたのです」
「父にいろいろきいてまいりました」
 皆、酒を飲む手をとめて、園を見た。
「そういうことはしなくてもよいと……」
「吟味の中身についてはなにもきいておりません。ただ……地雷屋さんのご様子を、と思いまして……」
「まあまあ、なかに入ってください」
 園は悄然(しょうぜん)として腰をかけると、
「やはり、地雷屋さんを召し捕ったのはうちの父でした。父とその上役の北岡(きたおか)さまと申される与力(よりき)のお方が受け持ったそうです。大坂ご城代から北岡さまを名指しで、召し捕るようにというお指図があったとか……」
「それは変ですね。ご城代が与力・同心を名指しするとは……」
 雀丸はつぶやいた。
「父は、牢屋敷での責めにも立ち会ったらしく、地雷屋はどんな牢問(ろうどい)をかけても音を上げるどころか、唇を嚙み、頑としてなにひとつ白状しようとせん、これはひょっとすると……と申しておりました」
「ひょっとすると、とはどういうことでしょう」
「そのさきは聞いておりませぬ」
 雀丸は一同に、
「蟇五郎さんも命懸けでがんばっておられるようです。私たちもがんばりましょう」
「うーい」
 皆は茶碗を持ち上げた。

 それより少し先立つ時刻のことである。
「ふーむ……」
 吟味役与力の三田村(みたむら)は、笞(むち)打ちをやめさせた。これ以上やると、背中の骨が砕ける。すでに肉が裂け、血が床にまで滴っている。
「これでもしゃべらぬか」
「…………」
 もはや蟇五郎は声を出す力もないようだ。三田村は吟味席まで引き返してくると、北岡与力に言った。
「公儀船手頭(ふなてがしら)が証拠の日本地図を見つけたと申しておったが、まことなのか」



   4      10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22  次へ
 
〈プロフィール〉
田中啓文(たなか・ひろふみ)
1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。
93年「凶の戦士」で第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選、ジャズミステリ短編「落下する縁」で「鮎川哲也の本格推理」に入選しデビュー。
2002年『銀河帝国の弘法も筆の誤り』で第33回星雲賞日本短編部門、09年短編「渋い夢」で第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
『水霊(ミズチ)』『辛い飴』『チュウは忠臣蔵のチュウ』等、著書多数。
Back number
第五話 俳諧でひと儲けの巻3
第五話 俳諧でひと儲けの巻2
第五話 俳諧でひと儲けの巻
第四話 抜け雀の巻3
第四話 抜け雀の巻3
第四話 抜け雀の巻2
第四話 抜け雀の巻