連載
浮世奉行と三悪人
第五話 俳諧でひと儲けの巻3 田中啓文 Hirofumi Tanaka

 現蕉は、露封にだけ題を事前に教えておくことで、露封に勝たせるつもりだった。しかし、露封はそれではぬるいと考え、雇ったヤクザものに梨考を襲わせた。それが裏目に出たのだ。
「まあ、わかったことは、ここにいるだれも俳諧の才はなかった、ということですね」
 ごまめ屋の長い床几に腰をかけた雀丸は一同にそう言った。集(つど)っているのは、加似江、鬼御前、地雷屋蟇五郎、大尊和尚、夢八、それに河野五郎兵衛だった。緑蝶はいつのまにか姿を消していた。越後に戻ったらしい。
「そのようじゃな。俳諧などというものは風流な遊びであって、賭けごとにしてしもうては台無しじゃ。あの阿呆どもが召し捕られて、まこと胸がせいせいしたわい」
「ご隠居さまも百両に目がくらんでおられたように思えましたけど……」
 鬼御前が言うと、
「わしは最初(はな)からこうなることを見通しておったゆえ、手を引いたのじゃ。のう、雀丸」
「え……ああ、はいはい」
 話題を変えねばならぬ。雀丸は河野五郎兵衛に言った。
「河野さんは、あの千津(ちづ)という子に仇討(あだう)ちはさせなかったのですね」
「うむ……仇討ちをさせても父親はもう帰ってこぬ。手を汚させるのも不憫(ふびん)ゆえ、露封、山瀬滝之助の始末は町奉行所に任せることにした」
「それがよいと思います」
「なれど……」
 河野は暗い顔で盃を口に運び、
「おまえが手にするはずだった百両も、公儀の賭博禁令に触れるということで没収(もっしゅ)されてしまった。こどもらの棲(す)み処(か)のことを思うと気が重いのだ」
「そうですね……」
 雀丸は顔を伏せたが、よい知恵は浮かばない。そのとき鬼御前が、
「ちょっとあんた……」
 地雷屋蟇五郎に言った。
「あんた……そこの悪徳商人!」
「だれが悪徳商人や」
「あんたなあ、あくどい商売して金貯めてるんやさかい、百両ぐらい河野さまに貸してさしあげたらええやないの」
「なに?」
 蟇五郎はむせて酒を口から吐き出しそうになった。
「そんな後ろ暗いことして儲けた金、ちょっとぐらい世のためひとのために使うたらどない?」
「なに言うとんねん。わしかて世のためひとのため……」
「ごじゃごじゃ言わんと、あての言うとおりにしたらええねん!」
「やかましいな。わしの稼いだ金や。使い道はわしが考える。おまえの指図は……」
「ああ、もう! あんたは黙ってなはれ! あての言うことがきけんちゅうのか、このしぶちん!」



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〈プロフィール〉
田中啓文(たなか・ひろふみ)
1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。
93年「凶の戦士」で第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選、ジャズミステリ短編「落下する縁」で「鮎川哲也の本格推理」に入選しデビュー。
2002年『銀河帝国の弘法も筆の誤り』で第33回星雲賞日本短編部門、09年短編「渋い夢」で第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
『水霊(ミズチ)』『辛い飴』『チュウは忠臣蔵のチュウ』等、著書多数。
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