連載
浮世奉行と三悪人
第七話 鬼の霍乱(かくらん)の巻3 田中啓文 Hirofumi Tanaka

    三

 翌日、雀丸(すずめまる)が昼まえに家を出ようとすると、夢八(ゆめはち)と鉢合わせした。
「わかりましたで。烏瓜(からすうり)さんのところに出入りしてたヤクザみたいな連中だすけどな……」
「もうわかったんですか。さすが仕事が速い」
「『養魂堂(ようこんどう)』ゆう唐薬(とうやく)問屋の番頭と手代ですわ」
「あれがですか?」
 雀丸は呆(あき)れた。どう見ても破落戸(ごろつき)にしか思えなかった。
「まあ、唐薬問屋いうたかて、まともな素性の薬は扱(あつこ)うてまへん。仕入れ先を内緒にせなあかんようなもんばかり、どえらい値ぇで売っとるらしい」
「仕入れ先を内緒、ということは……」
「たとえば長崎奉行の配下の侍が小遣い稼ぎにこそっと数をごまかして輸入したような薬とか、長崎の商人が異国船と直(じか)取り引きしたもん、あとは盗品だっしゃろな」
「うーん……」
「『山前屋(やままえや)』ゆう廻船問屋とつるんでるそうだすが、ここも評判が悪い。暴風で積み荷が海に落ちた、とか言うて、勝手に荷を売ったりするらしい。抜け荷をしとる、ゆう噂もおます。――ほな、わたいはこれで」
 雀丸はため息をついた。どうやら心配していたとおり、諒太郎(りょうたろう)は危ないことに手を出そうとしているようだ。
 少彦名(すくなひこな)神社に行くと、すでに開帳小屋はできあがっており、あとは拝観を待つばかりになっていた。宮司によると、
「楽しみなような、怖いような気分」
 とのことで、神事も手につかないらしい。神職が仏像開帳のことでそんなに舞い上がっていてよいのか、と思ったが、口には出さなかった。
「ああ、明日が待たれますわい。雀丸殿もぜひ拝観にお越しくだされ」
「わかりました」
 雀丸は天王寺(てんのうじ)に向かった。鬼御前(おにごぜん)を見舞うためである。金作(きんさく)という子方(こかた)が言うには、
「まだ熱が高(たこ)うおます。布団のなかでぶるぶるがたがたしてはるのを見ると、わてらもつろうて……」
「豆太(まめた)さんはどちらですか」
「あ……豆太の兄貴はその……出かけとります」
 雀丸は妙な気がした。豆太なら、朝から夜まで、いや、夜中までも鬼御前のそばを離れず看病すると思っていたのだ。そして、もう一点気になることがあった。家のなかの屋財家財がめっきり減っているように思われたからだ。



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〈プロフィール〉
田中啓文(たなか・ひろふみ)
1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。
93年「凶の剣士」で第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選、ジャズミステリ短編「落下する縁」で「鮎川哲也の本格推理」に入選しデビュー。
2002年『銀河帝国の弘法も筆の誤り』で第33回星雲賞日本短編部門、09年「渋い夢」で第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
『笑酔亭梅寿謎解噺』シリーズ、『鍋奉行犯科帳』シリーズ等、著書多数。
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