連載
浮世奉行と三悪人
第八話 鴻池の猫の巻2 田中啓文 Hirofumi Tanaka

「あのな、あのな、土ノ坂でな……」
「わてが探し出したのはお侍で……」
「えーとな、えーとな、六さんていうお職人がな……」
 口々に一斉にしゃべりだすのを制して、
「あー、いっぺんに言われてもわかりません。ひとりずつお願いします。まず、そっちの背の高い子から……」
 皆から話を聞きながら、雀丸はそれを書き留めた。その結果わかったのは、槌転びに出くわしたのは土ノ坂だけにかぎられていること、出会うのはきまって夜半であること、財布を失っているものが四名ほどいること……などである。
「ふーん……」
 雀丸が腕組みをして考え込んでいると、こどものひとりが土間に転がしてあった竹を指差して、
「あ、そや。わてが土ノ坂に行ってみたときな、坂の下の草むらにな、こんなぐらいの太い竹筒が落ちてたの見つけたわ」
「竹筒、ですか。両端の節は抜いてありましたか」
 こどもはうなずいた。
「皆さんにおききしたいのですが、あのあたりに蛇はいますか」
「おるで。昼間に行ったらよう見かけるわ。青大将ゆうやつや」
「槌転びではないのですね? 槌転びは、胴が太くて寸詰まりになったような形で、ちょろりと細い尻尾が生えているらしいのですが……」
「そんなんは見たことない。ただの蛇や」
 雀丸にはなんとなく槌転びの正体が見えてきた。しかし、証拠はない。
(これは確かめにいかねばならないな……)
 そう思ったとき、暖簾を跳ね上げてひとりの武士が入ってきた。
「雀丸、品物、受け取りに参った。できあがっておろうな」
「あ、それがその……」
「なにい? 貴様、わしを愚弄しておるのか」
「もう少しです。あと一日だけお待ちください。明日の夕方にはかならず……」
「待てぬ」
「待ってください。お願いです」
 押し問答を繰り返したあげく、依頼主は憤然として、
「わかった。一日だけ待ってつかわす。そのかわりもう一両引いておくぞ」
 はい、と言うしかない。へこへことお辞儀をする雀丸を尻目に、武士は足音も荒々しく出ていった。雀丸は園、玉吉、そしてこどもたちに、
「すみませんが、今聞いてのとおり、今日明日は籠って仕事をしなければなりません。どうかよろしくお願いします」
 皆はうなずいた。ホッとして座り込んだ雀丸に、こどものひとりが言った。
「へー、猫ってうどん食べるんやなあ」
「えっ?」
 見ると、いつのまにかヒナが、丼に顔を突っ込んで鰹節を美味そうに食べているではないか。怒ることもできず、雀丸が肩を落としていると、ヒナは顔を上げ、
「にゃう?」
 と鳴いた。



         10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23  次へ
 
〈プロフィール〉
田中啓文(たなか・ひろふみ)
1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。
93年「凶の剣士」で第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選、ジャズミステリ短編「落下する縁」で「鮎川哲也の本格推理」に入選しデビュー。
2002年『銀河帝国の弘法も筆の誤り』で第33回星雲賞日本短編部門、09年「渋い夢」で第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
『笑酔亭梅寿謎解噺』シリーズ、『鍋奉行犯科帳』シリーズ等、著書多数。
Back number
第八話 鴻池の猫の巻3
第八話 鴻池の猫の巻2
第八話 鴻池の猫の巻
第七話 鬼の霍乱(かくらん)の巻3
第七話 鬼の霍乱(かくらん)の巻2
第七話 鬼の霍乱(かくらん)の巻