よみもの・連載

浮世奉行と三悪人

第十六話 三すくみ崩壊の巻4

田中啓文Hirofumi Tanaka

 夢八が園に向かって、
「わたいもそやないか、と思うたんだすけど、流れで皐月さんをどついてしもた。あのときはああせなその場が収まらんかったのやけど、えらいすまんことでおます」
「いえ、いくらでもどついてやってください」
 雀丸が、
「皐月さんは、火付けを予告する刷り物と鴻池善右衛門さんを襲った下手人が落とした刷り物が、どちらも東町奉行所の尾上同心の手で作られた、ということを花井戸さんを飛び越えて石田奉行に直(じか)に告げる、と言って出ていかれたのです。それなのに、花井戸さんの手下のようになっているのはおかしいですね」
 大尊が、
「わしがかかる目に遭(お)うておるのは、どうやら雷覚寺(らいかくじ)という京の大寺の良苔(りょうたい)という和尚に三十石のなかで大恥を搔(か)かせてやったためらしいのじゃが、その良苔は東町奉行の役宅に泊まっておるらしいぞ。昔からの知己だという話じゃ」
 一同は顔を見合わせた。夢八が、
「そう言えば、花井戸が吟味役の同心に見せた書付も、東町奉行直々の指図書きやて言うとりましたわ」
 雀丸が、
「そうでしたか……。これはえらいことです。東町奉行がグルだとなると、皐月さんの身が心配ですね。なんとかしないと……」
 夢八が、
「ここにもそのうち追っ手が来るかもしれん。大尊和尚をどこぞに隠したほうがええんとちがうやろか」
「そうですねえ。お寺も焼けてしまったし……」
 大尊は憤然として、
「わしは逃げも隠れもせんぞ!」
「まあまあ、抑えて抑えて」
 雀丸は園に、
「園さんの家に匿(かくま)っていただけませんか。皐月さんのところなら、かえって安心ですから」
「はい、喜んで」
 ぶつぶつぼやく大尊を連れて園は竹光屋を出ていった。

プロフィール

田中啓文(たなか・ひろふみ) 1962年大阪府生まれ。神戸大学卒業。
93年「凶の剣士」で第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選、ジャズミステリ短編「落下する縁」で「鮎川哲也の本格推理」に入選しデビュー。
2002年『銀河帝国の弘法も筆の誤り』で第33回星雲賞日本短編部門、09年「渋い夢」で第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
『笑酔亭梅寿謎解噺』シリーズ、『鍋奉行犯科帳』シリーズ等、著書多数。

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