よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第二話 足りないさくらんぼを数える

友井 羊Hitsuji Tomoi

         1

 桜の木は葉が茂っていて、若々しい緑が陽光で透けていた。枝に小さな実が生(な)っているけれど、一昨日の大雨のせいか足下にたくさん落ちている。
 私は昼休みの校庭を一人で歩いて、座れる場所を探していた。教室はグループ分けができあがっていて、私の椅子はトイレに行っている間にクラスメイトが占領していた。
 私は基本的に教室で誰とも交流がない。最近喋(しゃべ)るようになった子がいるけれど、距離をつかみかねている。溌剌(はつらつ)とした性格の元陸上部の女子は、私とは住む領域が違っている。ふとした事件をきっかけに交流が生まれたけれど、相手のことは何も知らない。
「ふざけんな!」
 校舎の隅にさしかかったところで、聞き覚えのある声が聞こえた。いやな予感がする。回れ右をしかけた私は、学校中に響くかと思うくらいの大きな声で呼びかけられた。
「おお、結(ゆい)。いいところに来た!」
 顔を向けると案の定、荏田夏希(えだなつき)さんが手を振っていた。周りに男女二名の生徒がいて、一様に戸惑いの表情を浮かべている。手招きに逆らえず私は近づいていった。
「えっと、どうしたのかな。荏田さ、えっと夏希さ、……夏希ちゃん」
 夏希さんににらまれて、私は二度も言い換える。先日の事件の後、夏希さんは私を苗字ではなく下の名前で呼ぶようになった。流れで私も相手を名前で呼んだのだが、「夏希さん」と言ったらめちゃくちゃ文句をぶつけられた。しかたなく『ちゃん付け』にしたものの、心の中では違和感が残っている。正直、夏希さんが一番しっくりきている。
「聞いてくれよ。こいつらが私をさくらんぼ泥棒扱いしやがったんだ」
「違う。俺たちはただ話を聞きたかっただけだ」
 夏希さんは鼻息を荒くしていて、そばにいる男女は困り顔だ。私は人と相対するのが苦手だった。今だって関わり合いになりたくないけれど、詰め寄ってくる夏希さんから逃げられる気がしなかった。
「あの、一旦落ち着いて、詳しく話を聞かせてもらっていいかな」
「そうだな。いいぞ」
 私がそう言うと、夏希さんの荒々しい雰囲気が落ち着いていく。私でもクッションの役割は果たせるらしい。男女が安堵(あんど)の表情を浮かべた。夏希さんの説明によると写真部の部員らしく、二人が説明を引き継いだ。
「写真部の部室からさくらんぼが盗まれたんだ」
 部長である三年生の渡利(わたり)さんは痩せ形の男子生徒で、カメラのレンズを思い出させるまん丸な目をしていた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

Back number