よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第三話 慣れないお茶会で語らう

友井 羊Hitsuji Tomoi

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 放課後の騒がしい教室で、机の中からペットボトルを取り出す。キャップを開けて口をつけると生温い感触が喉を下りていった。いつ買ったお茶なのか気になったが、飲んだ後なので忘れることにした。
「ちょっといいかな」
「どうした、結(ゆい)」
 高校に友達のいない私にとって、クラスメイトの落合(おちあい)結は数少ない話し相手だ。結はブレザーの上着を脱いでいて、いつものように猫背だった。声の大きさは近場のお喋(しゃべ)りに負けそうだ。
「写真部の草村(くさむら)さんが、私たちに用事があるみたいで」
 結は廊下を気にしている。顔を向けると、ボブカットの見知った顔が教室を覗(のぞ)き込んでいた。先月、写真部の部室でさくらんぼのつまみぐい事件が発生した。その際に容疑者として私に疑惑の目を向けた女子生徒だ。
 さくらんぼ騒動の真相は結が見抜いた。しかし事実を明るみに出さないことに決めたので、表面上は未解決のままなのだ。半月以上経(た)って、すでに風化したものだと思っていた。
 リュックを背負いながら立ち上がり、結と一緒に廊下へ向かう。
「何の用だ」
 草村の正面で両腕を組むと、横から結が不安そうに見上げてきた。草村は気まずそうな表情で両手の指を絡ませていた。
「突然話しかけてごめん。この場所は話しにくいから移動してもらえるかな」
「別に構わないが」
 人に聞かれたくない内容らしい。廊下は生徒で埋まっている。初対面のとき草村は私に冷淡な態度を取ったが、今日は別人のようにしおらしい。
 歩き出した草村についていく。窓の向こうで校庭の木が雨に濡れ、葉の緑色が濃く見えた。梅雨らしく小雨が連日降り続いている。
 校舎の外れにある専門教室が多い一画に到着する。授業のない放課後は人通りがほとんどなくなる。空気の停滞した廊下には湿気が溜(た)まり、教室より明らかに気温が低かった。
 廊下の突き当たりにさくらんぼ事件の中心人物である一年男子の杉野秀充(すぎのひでみつ)がいて、私たちに気づいて笑顔で手を振った。結が歩きながらつぶやく。
「どうして杉野くんが?」
「私が呼んだの」
 草村が杉野に手を振り返す。杉野は今日も子犬みたいに人懐こい雰囲気だ。四人が合流してすぐ、草村が私と結に頭を下げた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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