よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第四話 固まらない寒天を見逃す

友井 羊Hitsuji Tomoi

          1

 私は陳列された舞茸(まいたけ)を前に迷っていた。スーパーマーケットのようにパック詰めにされていなくて、薄いプラスチック容器に載せられている。どれも肉厚で大きいけれど、結局決められなくて一番奥の商品を選んだ。
 六月も下旬になり、キュウリやトマトなどの夏野菜が店先に並んでいる。店員のおじさんがだみ声でミョウガがおすすめだと連呼していた。
 自宅の近くに大手スーパーはあるのだけれど、商店街の青果店のほうが新鮮だと評判だった。しかも値段もほぼ変わらない。買い物の目的は家庭科の調理実習で使う食材だ。事前に班で話し合い、買っていくものを決めた。同級生に食べさせるものだから、なるべく良いものを持っていきたかった。
 通路が狭く、身を小さくしながらエノキダケとシメジにも手を伸ばす。すると背後にいた中年の女性が盛大に咳(せき)を繰り返した。それなのにマスクもせず、口元も手で覆っていない。
「うう……」
 最近、どうも夏風邪が流行っているらしい。私は素早く商品をカゴに入れ、顔を逸(そ)らしながら離れた。
 調理実習で作るのは白身魚のムニエル、野菜サラダ、根菜のスープ、キノコのソテー、そしてみかん入りの牛乳寒天だ。そのなかでは個人的に、牛乳寒天が楽しみだった。
 牛乳のシンプルな風味は、寒天の歯応えのある食感と合わさると素朴な美味しさが引き立つ気がした。ゼリーのほろほろと崩れる歯触りも捨てがたいが、牛乳で作るなら寒天のほうが好みだ。
 それに授業で習った寒天とゼラチンの凝固作用の違いも興味深い。植物性と動物性という成分の違いから、凝固と溶解の温度など様々な性質が異なるらしいのだ。
 レジに並ぶと、目の前に見覚えのある背中があった。
「夏希(なつき)ちゃん?」
「結(ゆい)、お前こんなとこで何してんだ」
 夏希ちゃんが振り向き、目を丸くした。休日に会うのは初めてかもしれない。上下が綺麗(きれい)なデザインのジャージという格好だ。夏希ちゃんが居心地悪そうに顔を横に向ける。するとその先に、夏希ちゃんより頭一つ分背丈の低い女性がいた。
「あら、夏希のお友達?」
 一目見て夏希ちゃんの家族だとわかった。目鼻立ちや輪郭がそっくりなのだ。手にしている買い物かごには玉ねぎやブロッコリー、キウイフルーツなどが入っていた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

Back number