よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七話 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

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 コンロのスイッチを押したけど、うまく火が点(つ)いてくれない。がちゃがちゃと何度か押し直したらようやく点火できた。鼻先に家庭用ガスの臭いが一瞬だけ漂って消える。
 横にいる結(ゆい)は黒地に白の水玉のワンピースに、デニムのエプロンという格好だ。我が家のキッチンにいるのは不思議な感じがする。
 結と陽子(ようこ)叔母さんの自宅を訪問してから二週間、リビングにあるエアコンの冷気がキッチンを程よく快適にしてくれる。
 鍋の中はブルーベリーとグラニュー糖でいっぱいだ。私は木べらでかき混ぜながら結に訊(たず)ねた。
「なんでブルーベリーは硬そうなほうを選んだんだ? どうせ潰すんだから、柔らかくなったやつを使えばいいだろ」
 結(ゆい)は下準備のとき、冷蔵庫から出した大量のブルーベリーを目を丸くしながら見比べていた。その上で、硬い粒の入った袋を選んだ。
 髪の毛をゴム紐(ひも)でくくった結が、レモンを半分に切りながら答える。
「えっと、熟すとペクチンの量が減るから」
「はあ」
 意味がわからず、詳しく聞き返そうか迷う。ペクチンという言葉を聞いた覚えはあるが、よく思い出せない。すると妹の千秋(ちあき)が急に背伸びして、結に顔を近づけた。
「ねえねえ、ペクチンって何?」
 結が驚いたのか身体(からだ)を仰(の)け反らせる。だけど目を輝かせる千秋に、結は柔らかな笑顔を向けた。
「果物をジャムにするにはペクチンという成分が必要なの。えっと、ごめん。難しいよね」
「そんなことない。面白いからもっと教えて」
 小学四年生の千秋は理科が好きで、テストはほぼ毎回百点だ。図書館から科学関連の児童書をよく借りているし、化学実験系の動画なら放っておくと何時間でも集中して見ている。そのため母さんは一日一時間に動画を制限していた。
「果物に砂糖とレモン果汁を加えて熱するの。そうするとペクチンが化学変化を起こしてゲル化……えっと、ジャムみたいにドロドロになるんだよ」
「どんな果物でも?」
「基本的にはなるけど、果物によってペクチンの量が違うの。だから少ない場合は後から加える必要があるんだ」
 今まさに私が、結が千秋に講義中の作業を進めている。熱でグラニュー糖が溶け、ブルーベリーと馴染(なじ)む。果実の皮が裂けて果汁が溢(あふ)れた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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