よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

「あっ、思い出した。ペクチンってフルーチェを固めるやつじゃなかったっけ」
「正解だよ。よく知っているね」
「パッケージの裏に書いてあったから!」
 私たちは今、我が家のキッチンでブルーベリージャムを作っている。
 三日くらい前、父方の祖父母からブルーベリーをたくさんもらった。食べきれる量ではなかったし、冷蔵庫のスペースも空きがなかった。それを結に話したところジャム作りを提案され、会話の流れから一緒に作ることになったのだ。
 かき混ぜているだけなので、五分と経(た)たずに飽きてきた。結の講義はいつの間にか終わっていて、千秋がブルーベリーを摘(つ)まんでいる。ブルーベリーを選別するとき、結が柔らかすぎるといって省いたものだ。
「お母さんが買うのは硬くて酸っぱい果物ばかりなんだよ。それでちょっとでも柔らかくなると、すぐに駄目になったって嫌がるの。私は熟したほうが好きなのにな。あ、結ちゃんも食べる?」
「ジャムも食べるし、そんなにたくさんはもらえないよ」
「たくさんあるから気にすんな。さっき見たときだって、昨日より量が増えたように思ったくらいだからな」
「ブルーベリーが自然に増えたら最高だね。それじゃ少しいただこうかな」
 結がブルーベリーの粒を摘まんで口に放り込んだ。
「柔らかくなったのも美味(おい)しいね」
「そうだよね!」
 笑顔になった結の腕に、千秋がしがみついた。
「結ちゃん、フルーツの辻口って知ってる? 私、あの店が大好きなんだ」
 千秋はお喋(しゃべ)りが大好きで、頭に浮かんだことは口に出さずにいられない。色々なことに興味のある千秋のおかげで、我が家はいつでもにぎやかだ。
「あの店なら私もたまに行くよ」
「見たことのない外国のフルーツがいっぱいあって好きなんだ。裏にある倉庫も入ってみたいな。あの建物にある物が全部果物なんて夢みたいだよね。それでね――」
「千秋、交代するぞ」
「はあい」
 木べらを差し出すと、千秋は素直に受け取った。コンロの前に立った千秋は、熱されたブルーベリーの甘い香りに満面の笑みになる。私は結に近づき、小声で言った。
「千秋の相手、ありがとう」
「いい子だね」
 結は微笑(ほほえ)むけれど、会話中に戸惑いの表情を何度か浮かべていた。千秋のとめどないお喋りは、慣れないとついていくのが大変なのだ。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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