よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 私も千秋もまるおかベーカリーのパンの味に慣れ親しんでいる。芳ばしい香りと気取らない味は他の店には代えがたい。後継者がいないため、あの味が消えるのは避けられないのかもしれない。だからこそ少しでも長く店が続いてほしいと願っている。
「さて、千秋。宿題をするぞ」
「はあい」
 千秋が間延びした返事をする。飽きっぽく忘れやすい千秋に宿題をやらせるのは私の役目だ。結にも事前に了承を取ってある。
 リビングのテーブルに国語のプリントを置き、千秋にシャープペンシルを握らせる。
 千秋は私に似ていて、長時間じっとすることが苦手だ。飽きると身体を揺らし、お喋りをはじめようとする。私の役目は逸(そ)れた意識を宿題に戻すことだ。ちゃんと面倒を見さえすれば、千秋は勉強に取り組んでくれる。
 最後の問題を解いた千秋が大きく伸びをした。
「終わったあ」
「それじゃ飯にするぞ」
「やった!」
 時刻は正午を過ぎていた。解放感からか千秋がキッチンまで駆け、途中のドアに腕をぶつけていた。
 ジャムはだいぶ冷めていた。瓶の蓋を開けてスプーンですくう。すると煮詰めたブルーベリーは、市販のジャムのようにぷるぷるに固まっていた。
「すごい。本当にジャムになってる!」
 千秋が目を輝かせる。全員でテーブルにつき、紙袋からまるおかベーカリーのパンを取り出した。この店はコッペパンなどの昭和の雰囲気のパンが美味しいのだ。
 コッペパンは適度に硬く、表面はこんがりと焼き上がっている。千切ると中は真っ白で、そこにすくい取ったジャムを塗る。
 赤紫色のブルーベリージャムがパンに染み込む。口に放り込むと、果実の濃厚な風味と甘酸っぱさが広がった。ほどよく水分の抜けた生地がジャムを吸い込み、ちょうどよいしっとり感を生み出している。
「パンとジャムだけなのに最高だな」
「美味しい!」
 パンを頬張りながら千秋が大声を出す。唇の端についたジャムを指で拭ってやると、千秋がくすぐったそうに身動(みじろ)ぎした。
「美味しいなあ。パンの味がシンプルだから、ジャムの味が活(い)きているね」
 私も結と同じ感想だ。私は次に冷蔵庫からマーガリンを取り出す。バターもあったけど、まるおかベーカリーならマーガリンのほうが多分合う。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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