よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 マーガリンとジャムを贅沢(ぜいたく)に塗ってから口に入れる。すると予想通り、バターとは違った軽やかなコクが加わり、満足感がぐっと増した。
 結や千秋も同じようにマーガリンを塗って食べ、幸せそうに口元を綻(ほころ)ばせている。
 そこで私は、別の料理を思い出して立ち上がった。
「ちょっと待ってろ。昨日、面白いレシピを見つけたんだよ」
 冷蔵庫を開け、昨晩から解凍しておいたステーキ用の牛肉を取り出した。レシピでは常温で戻すと書いてあったがすっかり忘れていた。
 結が戸惑いの表情で牛肉を見詰めている。
「そんなに高そうなお肉、食べちゃっていいの?」
「特売のアメリカ産牛肉だから高くはないぞ。それにこの前家族で食べたときの残りで、母さんの許可も取ってあるから」
 指で押すと解凍できているようで柔らかかった。だが先日と見た目が変わっている。
「冷凍していたから、さすがに色が変わっているな」
「色?」
「前は綺麗(きれい)なピンク色だったんだ」
 目にしたことがないくらい新鮮そうだったのに、今は小豆みたいな色だ。だけど普通の牛肉の色に戻っただけだから、味には影響ないに違いない。
「ピンク色……?」
 結はなぜか不思議そうに首を傾(かし)げている。
 ステーキ肉に塩胡椒(こしょう)を振り、熱したフライパンに油をひく。ステーキ肉を投入すると弾けるような音がして、芳ばしい香りが立ち上った。
 スマホを使って焼き時間を計る。片面が終わったら裏返し、同じように焼いていく。待つ時間でアルミホイルを用意する。
 ステーキ肉はこんがりと焼き色がついていた。アルミホイルに載せてから包み、肉を寝かせる。この工程で肉の内側までじっくり熱を通すらしい。
「さて、今回の主役の登場だ」
 肉を焼いたフライパンにバターと赤ワイン、そして醤油(しょうゆ)を入れる。さらに出来たてのブルーベリージャムをひと匙(さじ)加えると、背後から千秋の裏返ったような声が聞こえた。
「ジャムを入れちゃうの?」
 ブルーベリージャムのレシピを調べながら見つけたときは私も驚いた。だけどどんな味か気になってしまい、どうしても食べたくなったのだ。
 結は興味深そうにフライパンに目を向けている。
「日本ではあまり馴染みがないけど、海外ではお肉に果物の組み合わせは普通らしいね。私も食べたことがないから楽しみだな」

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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