よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 ソースが煮詰まったら火を止め、アルミホイルを開いた。水蒸気が溢れ、ステーキの香りが漂う。アルミホイルに肉汁が溜(た)まっていて、もったいないのでソースに加えた。
 まな板の上でステーキを切り分ける。断面は中心に向かって、焼き色から鮮やかなピンク色へとグラデーションができていた。
「さて、完成だ」
 白い皿の上に載せ、ブルーベリーソースをかける。添え物や彩りがないので見た目はよくないけど、味は一緒だから気にしないでおく。
「いただきます!」
 千秋が真っ先にフォークを持つ手を伸ばした。口に運ぶ様子を私と結が見守る。すると千秋が満面の笑みを浮かべた。
「すっごく美味しい!」
「それじゃ私も」
「いただきます」
 千秋に続いて、私と結もステーキを食べる。慣れ親しんだビーフステーキの贅沢な味わいに、ブルーベリーの甘さが馴染み、脂のしつこさを酸味が打ち消してくれる。
「旨(うま)いなこれ」
 初めての組み合わせだが違和感はなく、相性は想像以上に抜群だ。赤ワインのほろ苦さやバターのコク、そして醤油の味も橋渡しの役目を果たしているのだろう。焼いた肉にフルーツなんて、甘くて食べられないかと思った。でも実際に味わってみると問題なかった。甘みの強さで比べれば、すき焼きあたりと変わらない。
「こんなに合うんだね」
 結の舌にも合うらしい。私たちは次々に手を伸ばしたが、三人でステーキ肉一枚だったため一瞬で終わってしまう。
 たくさん買っていたはずのパンも尽き、私たちはランチを終えた。ジャムも半分に減っている。野菜は一切ないし、炭水化物も取りすぎだ。栄養バランスは偏(かたよ)っているが、今日くらいは忘れることにした。
「ああ、うまかった」
 私は腹を押さえる。千秋も結も満足そうだ。するとスマホのアラームが鳴った。一時という時刻を確認してから私は千秋に告げる。
「英会話の時間だぞ」
「本当だ!」
 千秋が勢いよく立ち上がる。土曜は午後一時半から英会話塾に通っているのだ。徒歩で行ける場所なので往き来は一人で任せている。
 キッチンを出る際、千秋は椅子に足をぶつけていた。何かに集中すると視野が狭まり、様々なものにぶつかったり転んだりする。そのせいか腕や足には本人も覚えがない謎の痣(あざ)が絶えなかった。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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