よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 結の勘違いのために、私は自分が発達障害である可能性を自覚した。私はきっかけを得られて感謝している。何度も気にしていないと伝えているが、結は発言が不用意だったと未(いま)だに悔やんでいるのだ。
「なあ、検査する必要ってあると思うか?」
 私はまだ迷っていた。高校生なら親に無断で検査もできるだろう。だけど小学生は別だ。本人は発達障害について理解していないし、その可能性があるかもしれないことを伝えるほうがいいかもわからない。検査をすることで本人が自覚をして、ショックを受ける恐れもある。本来なら保護者が専門家に相談しながら判断するべきことのはずだ。
 私の疑問に結が渋面を作った。
「意味はあると思うよ。行政の支援も期待できるし、お医者さんから適切な対策も学べる。それに正式な診断書があれば、発達障害を理解しない人に説明する根拠にもなるから」
「なるほどな」
「自分の性質を知ることは大事だって、私は先輩から教えてもらったの。先輩はずっと吃音(きつおん)で悩んでいた。だけど専門家の指導でかなり改善したらしいから」
 昨年卒業した、結の尊敬する先輩のことだろう。結は先輩を慕い、大きな影響を受けている。私は両腕を広げ、ベッドに倒れ込んだ。
「でも検査のためには、理解を拒む親の許可が要るんだよなあ」
 医師の診断が下れば、きっと母さんも私の話に耳を貸すはずだ。だけど検査には親の許可がほしい。単身赴任中の父さんは子育てに関して母さんに丸投げだ。相談してもきっと母さんに従うようにと言うだけだろう。
 気分が沈んできたので、私は跳ねるようにして立ち上がった。
「部屋で悩んでいても落ち込むだけだ。外をぶらつきながら話そう」
「そうだね」
 結も微笑みながら立ち上がり、私たちは身支度を調えて部屋を出た。おすそ分け、と言って結にジャムを一瓶渡す。玄関脇のチェックシートに目を通し、スマホと財布を確認する。
「結と出かけてくる」
 家の奥に呼びかけると、母さんから「熱中症に気をつけて」と返事があった。外の空気は暑く、青空から鋭い日射しが降り注いでいた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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