よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 道端にいた猫を撫でようとして逃げられ、書店で新刊を眺めては何も買わずに帰る。ドラッグストアでコスメに手を伸ばしたが、私も結も知識がなさすぎて何を選べばいいか全くわからない。
 お喋りとお店の冷やかしで、時間は瞬く間に過ぎていく。小腹が減り、ハンバーガーショップに向かった。店の前で母さんから電話があり、私はスマホを耳に当てる。
「もしもし」
 目の前の自動ドアが開き、フライドポテトの匂いが漂ってきた。
「ああ、夏希(なつき)。千秋は一緒にいない?」
「いないけど、まだ帰っていないのか」
 母さんの喋り方は普段より早口だった。店内の時計が見え、午後四時半を差している。出かけるときに四時前に帰ると約束していたはずだ。
「絢ちゃんたちとよく遊ぶ公園を見に行ったけど、千秋の姿はなかったの。それから家に戻ってもまだ帰ってなくて……。どこに行ったかわかるかしら」
 防犯用のキッズケータイは、ソファの脇に落ちていたらしい。玄関脇のチェックシートに書いてあったのに、また確認し忘れていたようだ。
 千秋の忘れ物は予測不可能だ。先日も学校に提出する大事なプリントが行方知れずになった。母さんと一緒に大捜索した結果、なぜか冷蔵庫から発見された。どのような経緯で入ったのか、千秋本人も全く思い出せなかった。
「今は駅近くだから心当たりを探すよ。母さんは自宅で待機していてくれ」
「お友達と遊んでいる最中にごめんね」
 電話を切ると、結が心配そうな視線を向けていた。
「千秋ちゃん、帰ってこないんだね。探す当てはあるの?」
「変な場所には行っていないと思うんだ」
 千秋が行方知れずになるのは珍しくない。興味のあるものに意識を持っていかれ、ふらふらと横道にそれてしまうのだ。ただし千秋は方向感覚が優れているので、道に迷っても基本的には自宅まで戻ってくる。
 だから帰ってこないときは、何かに集中して時間を忘れている可能性が高い。以前には公園で昆虫観察を五時間近く続けていたこともあった。
「公園以外だと図書館かな。仲良しの友達とよく遊びに行くんだ」
 英会話塾から自宅までの道のりから四百メートルほど外れたところに、大きな図書館があった。子供向けの科学本を多く取り揃(そろ)え、千秋は読破を目指している。
「途中で悪いけど、探してくるわ」
「手伝うよ」
「ありがとう。助かるよ。それじゃついでにおじいちゃん家(ち)にも寄るかな」
 駅前から図書館までの道の途中に父方の実家があり、今は祖父母と伯父一家が暮らしている。顔を出すとお菓子をもらえるので、祖父母に会いに行った可能性も捨てきれない。ハンバーガーショップに背を向け、私たちは並んで歩き出した。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

Back number