よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 父さんが生まれ育った一軒家は幹線道路から近い路地の脇に建っていた。外壁は白く塗られ、屋根瓦は昔ながらの黒色だ。築年数は四十年以上らしく、玄関脇に立派な松の木が植わっていた。
 チャイムを鳴らすと、おばあちゃんが顔を出した。突然の訪問にも喜び、笑い皺(じわ)がさらに深くなる。人見知りする結は、道路上で身を隠すようにして待っている。
「千秋いる?」
「来てないけど、どうしたの?」
 祖父母の家はハズレのようだ。私は千秋が帰宅していないことを説明する。おばあちゃんの第一声は「またなの?」だった。
「ちょっと待っていてね」
 おばあちゃんが奥に消え、すぐにおじいちゃんと一緒に戻ってきた。年なのに背筋が真っ直ぐで、廊下を歩くときの足音が大きい。
「千秋はまたいなくなったのか」
 おじいちゃんが眉間に深い皺を作ると、厳(いか)めしい顔立ちがさらに迫力を増した。
「これから心当たりを探しにいくよ」
「またどこかで時間を忘れているのだな。俺にも協力できることがあるか、春美(はるみ)さんに連絡しよう。夏希も車には注意するんだぞ」
「ありがとう、気をつけるよ」
 春美とは母さんの名前だ。玄関の扉を閉め、路上で待つ結と合流する。
 十分ほど歩くと、三階建ての図書館が見えてきた。建て替えてからまだ日が浅く、大きなガラス張りの壁が太陽光を反射していた。
「ここに友達と来ることが多いんだ」
 図書館以外にも児童館や音楽ホール、イベントスペースなど複数の施設が置かれている。裏手には広場もあるため、時間を潰すにはもってこいなのだ。
 建物に入った私たちは、エアコンの空気にひと息つく。すると幸運にもロビーで見知った顔を発見した。
「絢、鈴音(すずね)!」
 呼びかけると、小柄な少女たちが振り向いた。
「ひさしぶりだな」
「なっちゃんだ。どうしたの?」
 絢と鈴音は妹のクラスメイトだ。日焼けした短髪の少年みたいな子が絢で、ポニーテールの丸顔が鈴音だ。三年のときから妹と仲良くなり、クラス替えのない四年生に上がってもよく一緒に遊んでいた。
 結は小学生相手でも人見知りするらしく、三メートルほど距離を取りながら気配を消している。
「千秋は一緒じゃないのか」
 妹と一緒かと思ったが、二人だけのようだ。
「……違うけど、何で?」
 絢はなぜか一瞬言葉に詰まったように見えたが、すぐに顔を上げて答えた。
「約束の時間に帰ってこなくてな。塾帰りにお前らと遊ぶと言って出かけたんだ」
 絢たちが顔を見合わせ、同時に首を横に振った。
「今日は遊んでいないよ」
「私も見てないよ。多分ここにも来ていないと思う。塾帰りのバッグは目立つから、遠くからでもすぐわかるし」
 つまり千秋は絢たちと遊ぶと嘘(うそ)をついたことになる。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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