よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

「行きそうな場所に心当たりはないか」
「公園か、あとは大きな文房具屋さんかな。他はちょっとわからない」
 公園は母さんが探したから、残るは文房具屋だけだ。県内でも特に大きな文房具店が徒歩圏内にあった。事務用品がメインの店だが、可愛らしい定規やカラーペンも品揃えが豊富で、千秋は買わなくても小一時間は棚を眺めている。
「助かる。遅いからお前らも早く帰れ」
「うん、わかった」
 時刻は午後五時を過ぎていた。夏でまだ日が高いとはいえ、六時を過ぎれば徐々に暗くなる。二人が帰ろうとすると、結が近づいてきた。
「えっと、こんにちは。私は夏希ちゃんの友達の落合(おちあい)結っていうの」
「こんにちは」
 絢と鈴音は困惑した顔で挨拶を返す。結が身を屈(かが)め、二人に目線を合わせた。
「変なことを聞くけどごめん。二人は千秋ちゃんと仲良しなんだよね。それで二人が最後に千秋ちゃんと遊んだのがいつなのか、私に教えてもらえるかな」
 質問の意図がわからない。だが絢は顔を強張らせ、鈴音は気まずそうに目を伏せながら答えた。
「……一ヶ月くらい遊んでないです」
「どういうことだ」
 詰め寄ると、鈴音と絢が怯(おび)えた表情になる。この一ヶ月、千秋は何度も絢や鈴音と遊んでいるはずだ。結が焦りながら割って入る。
「責めているわけじゃないの。ただ、理由を教えてもらえるかな」
 結の声の調子は穏やかで、絢と鈴音の表情が和らいだ。年下相手に大人げなかったと反省する。すると絢たちが躊躇いがちに教えてくれた。
「喧嘩(けんか)したんです」
 絢たちの話によると、原因は千秋にあったらしい。鈴音の気になる男子の名前を、千秋が大勢の前で口を滑らせたというのだ。
 千秋は謝ったが、鈴音の怒りは収まらなかった。
 実は絢も千秋に秘密を暴露された過去があった。その際は許したが、昔を思い出して鈴音の味方についた。その結果、絢と鈴音は千秋に『絶交』を宣言した。
「千秋のやつ、またやったのか」
 私はため息をつく。千秋は内緒話を秘密にするのが苦手だ。親戚の集まりで偶然耳にした陰口を、本人に伝えて大騒動を起こしたこともあった。
 似たようなトラブルは、私も小学校や中学校で何度かやらかしたことがある。だから千秋の気持ちもわかった。言っては駄目という自覚はあるのに衝動が抑えられず、つい口を滑らせてしまうのだ。
 何度も母さんから叱られ、本人も自己嫌悪を抱いている様子だった。反省した結果なのか、少なくとも私の知る範囲ではその失敗は鳴りを潜めていた。だが学校では同じ失敗を犯していたのだ。鈴音が目の端に涙を浮かべる。
「千秋ちゃんからは、ちゃんと謝ってもらいました。私たちもやりすぎって反省して、絢ちゃんとも仲直りしようかって相談していたんです。除(の)け者にしたことも、きちんと謝ろうと思っています」
 姉である私の前だから、言い繕っているのではないかという可能性が頭をよぎる。だけど肩を落とす二人を見て、私は嘘をついていないと感じた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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