よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

「教えてくれてありがとう。千秋と仲直りしてくれると私も嬉(うれ)しい」
 優しい声を出すと、絢と鈴音が素直にこくりと頷(うなず)く。それから絢が恐るおそるといった態度で口を開いた。
「思い出したんですけど、千秋ちゃんには秘密の隠れ家があるみたいです」
「隠れ家?」
 絶交する数日前に聞いた話らしい。千秋は自分だけの隠れ家を見つけ、秘密基地にしているというのだ。
「千秋ちゃんは隠れ家について、良い匂いがしてお腹が空(す)くと笑っていました。だけどそれ以上は教えてくれませんでした」
 本人も最初は教える気がないのに、うっかり口を滑らせてから途中で言うのを止(や)めたといった素振りだったらしい。
 友達の内緒話は暴露するのに、自分の秘密は明かさないことに、絢は少し腹を立てた。そのことも千秋と喧嘩をした理由になったようだ。
 私は絢と鈴音の頭を同時に撫でる。
「ありがとう。千秋の口の軽さは叱っておくよ。またあいつと仲良く遊んでやってくれ」
「もちろんです」
 絢と鈴音は丁寧にお辞儀をして、立ち去っていった。小さくなる背中を見送りながら、私は結に気になっていたことを訊ねた。
「どうしてあいつらに、あんな質問をしたんだ?」
 結も遠ざかる絢たちを見詰めている。
「千秋ちゃんのバッグが目立つと話していたから。前は真っ赤だったけど、藍色のバッグに買い換えたんだよね。だから少なくとも二週間は遊んでいないと考えたんだ」
「さすが結だな」
「えっと、偶然だよ」
 結の顔が赤くなるのを横目に、ある疑問が頭をよぎった。
「そうするとあの忘れ物のときも、絢たちとは遊んでいなかったわけか」
「何かあったの?」
「千秋が友達と遊んだ後に買い物をするよう頼んだんだ。だけどエコバッグごと商品を忘れたんだよ。今日の昼に食べた牛肉は、そのとき千秋が買ったものだったな」
 私は続けて、千秋が無事にエコバッグを持って戻ってきた後のことを思い出した。
「そういえば私が『盗まれていなくてよかったな』と言ったら、千秋は『それは大丈夫』と自信満々に答えたんだ。あれは何故だったんだろう」
「エコバッグを隠れ家に忘れていたから、持ち去られていない自信があったのかも」
 誰にも知られていない場所なら、盗まれる心配はないはずだ。だけど今は隠れ家がどこにあるのか見当もつかない。
「それじゃ次は文房具屋かな」
 歩き出した私を結が手で制した。
「私一人で充分だよ。夏希ちゃんは他を探したほうがいい」
「ありがとう。助かるよ」
 結がスマホを検索し、文房具屋のある方角へ走っていった。
 自宅に電話して確認したが、千秋は戻ってきていなかった。心配したおじいちゃんも我が家に向かっているという。念のため図書館を含めた複合施設を探したが、千秋の姿はなかった。私は母さんと相談するため、一旦家に戻ることに決めた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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