お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

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 自宅に着くと、おじいちゃんが乗る灰色のセダンが駐(と)まっていた。玄関は鍵がかかっておらず、開けた直後に、言い聞かせるような低い声が奥から聞こえた。
 小言を言うときみたいな口調が気になって、私はリビングを覗き込む。
「子育てに口を出すのは控えたいが、やはり春美さんが甘やかすのが原因なんじゃないか」
 おじいちゃんは厳めしい顔で腕を組み、母さんは項垂(うなだ)れている。リビングのテーブルに急須と湯飲みが置いてある。私の位置からだと丸めた背中しか見えず、母さんの表情はわからなかった。
「夏希も問題ばかりだったが、千秋はそれ以上にトラブル続きだ。直政(なおまさ)も明夫(あきお)も男子だから多少はやんちゃだったが、あの子たちほど酷(ひど)くはなかった。直政の息子たちも真面目で大人しい。俺には春美さんの躾(しつけ)のせいとしか思えないんだ」
 おじいちゃんは教え諭すような口調だ。直政は伯父さん、明夫は父さんの名前だ。伯父さんの息子である従兄たちは優等生で、どちらも有名大学に進学していた。
「本当に申し訳ありません」
「春美さんが謝っても仕方ない。将来大変な思いをするのは子供たちだ。今からでも遅くない。親が責任を持って教育しないと、わがままな大人に成長してしまうぞ」
「おじいちゃん、それ本気で言ってるのか」
 リビングに踏み込んだ私に、二人の視線が注がれる。おじいちゃんは狼狽(うろた)えながら口を開いた。
「大人の会話に口を挟むんじゃない」
「は、ふざけんな」
 頭に一気に血が上る。詰め寄るため一歩踏み出すと、母さんが私の行く手を遮った。
「おじいちゃんにそんな口を利いちゃ駄目でしょう!」
 母さんが私の手首を掴(つか)む。振り払おうとしても力が強くて無理だった。長い爪が皮膚に食い込み、痛みを覚える。母さんがおじいちゃんに頭を下げた。
「すみません。この子には私が言い聞かせますから」
「ちょっと、母さん」
 母さんに腕を引かれ、廊下からキッチンに連れていかれる。パン屋の紙袋が丸めたままテーブルに置いてあった。私が、捨て忘れたゴミだ。握る力が弱まり、腕を振ると母さんはあっさり手を離した。
「どうして反論しないんだよ」
 母さんが目を閉じ、首を横に振った。
「おじいちゃんは可愛い孫の将来が心配で、善(よ)かれと思って言ってくれているの。それなのにあんな乱暴な態度を取るなんていけないわ」
「だけど今の話は納得できない」
 医師に診断してもらったわけではないが、もしも発達障害なら育て方云々(うんぬん)で片付けられる問題ではないのだ。それなのに母さんが甘やかしたせいだと断言するのは間違っている。

よみもの・連載

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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