よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 おじいちゃんの世代だとADHDや自閉症スペクトラム、学習障害などの概念自体がまだ存在していなかった。だからそうしたことの可能性に思い当たること自体が難しいのかもしれない。
 それでも母さんの育て方を一方的に否定するのは聞き捨てならない。私は母さんの教えのおかげで何とか日常生活を送れるようになったのだ。
 そこでふいに母さんが微笑を浮かべた。
「昔の人は、あれくらい言うのは普通なの。おじいちゃんは優しいほうよ。もっと手厳しい人なんて他にたくさんいるわ。目くじらを立てても仕方ない。必要な助言は受け止めて、あとは聞き流すくらいがちょうどいいの」
「でも……」
 力のない笑みからあきらめが伝わり、文句を言おうとする衝動が萎(しぼ)んでしまった。
 かける言葉を探していると、スマホに結からのメッセージが届いた。文房具屋を探したが、千秋は発見できなかったようだ。残る可能性は一つだけだ。気持ちを切り替え、私は母さんに訊ねた。
「どこかに千秋の隠れ家があるらしい。良い匂いがしていたと友達に話していたみたいなんだけど、母さんに心当たりはないか?」
「ごめんなさい、わからないわ」
「それじゃ、おじいちゃんにも聞くか」
 気まずいけれど、今は千秋を探すことを優先するべきだ。リビングに戻ると、おじいちゃんは渋い顔のまま何も言わなかった。私もまだ言葉遣いに関して謝罪する気が起きない。
 隠れ家について聞くと、おじいちゃんは目を見開いた。
「それなら聞いたぞ。ブルーベリーを届けた時に、千秋が教えてくれたんだ」
「詳しく教えて」
 三日前、おじいちゃんとおばあちゃんがブルーベリーを届けてくれた。おばあちゃんの知り合いが朝に収穫したらしく、弾ける歯触りと鮮烈な酸味が魅力だった。
 だけど千秋は味わった後、少し置いた後の柔らかいのが好みだとおじいちゃんにこっそり打ち明けた。新鮮さを自慢するおばあちゃんの手前、言いにくかったのだろう。発言を抑えることが苦手な千秋にしては我慢したほうだ。そのとき千秋は隠れ家の存在と、不思議な力について話したというのだ。
「千秋が言うには、隠れ家は果物が早く熟す魔法の場所らしい。冗談かと思っていたが、何かの手がかりになるだろうか」
「隠れ家は良い匂いがして、果物が早く熟す場所ってことか」
 そこで私はジャムを作った際の違和感を思い出した。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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