よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 私は昨日の朝、冷蔵庫にあったブルーベリーの量を確認している。そして今朝ジャムを作るためにブルーベリーを出したら、前日より増えているような気がしたのだ。さらに結と一緒に選別した際に、明らかに中身の粒が他より柔らかい袋があった。
 隠れ家では、果実の熟す速度が実際に上がると仮定してみる。
 その場合、千秋はブルーベリーを柔らかくするため、一部を隠れ家に運んだのだろう。そして不思議な力で早く熟した。だけど私がジャムを作ると知った千秋は、足りなくなる可能性を考えて冷蔵庫に戻したのかもしれない。
 だけど熟すスピードが上がる場所なんてあるのだろうか。母さんもおじいちゃんも首を捻(ひね)っている。
「あいつならわかるかも」
 情報をまとめ、メッセージを送る。きっと何か見抜いてくれるはずだ。すると三分くらいで結から返事が届いた。
『果物屋さんかもしれない』
 メッセージには推理の理由も添えてあった。
 果実を早く熟させる成分として、林檎(りんご)などの果物から発散されるエチレンガスが有名だ。私も授業で習ったから覚えている。植物の生長を促進させたり、草花を枯らすなどの影響も及ぼすのだ。
 青果店なら果実の良い香りが漂うし、エチレンガスも大量に発散されているはずだ。千秋の好きな青果店ならフルーツの辻口だろう。あの店に隠れ家になるスペースがあるかどうかはわからない。疑問点は多いが、他に候補がない以上調べるしかない。
「車を出して」
 母さんに説明し、フルーツの辻口に向かうことにした。しれっと帰宅する可能性も捨てきれないので、おじいちゃんには留守番を頼んだ。
 助手席でシートベルトを締めると、母さんがエンジンをかけた。シート越しにエンジンの振動を感じる。時刻は午後六時を回り、辺りは薄暗くなりはじめていた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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