よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 フルーツの辻口は近隣で最も大きい青果店だ。県道沿いに本店を構え、県内外に多数の支店を展開している。本店のある本社ビルは英会話塾から歩いて十分ほどの距離なので、小学生の足でも充分たどり着けるはずだ。
 本社ビルの広い駐車場に母さんが車を駐める。一階が果物の販売フロアになっていた。二階は贈答用の高級フルーツを取り扱い、三階より上は事務所になっているようだ。
 本社ビルの裏は広い倉庫になっていた。敷地を回り込み、裏手の通用門に到着する。道路から見える倉庫の内部は、大量の段ボールが所狭しと積まれている。フォークリフトが行き交い、トラックがひっきりなしに出入りしていた。
 通用門の脇に警備員室があった。声をかけて、小学四年の女子を探していることを伝える。突然やってきた私たちに、警備員さんは親身になって耳を傾けてくれた。そして倉庫の責任者に電話をかけ、小学生の女の子を目撃したか、隠れ家になり得るスペースがあるかも訊ねてくれた。
 だが千秋を見かけた作業員はいなかった。倉庫の裏手なども確認してもらったが、隠れ家にできそうなスペースは存在しないと返事があった。
 警備員さんにお礼を述べ、私と母さんは駐車場に戻る。
 夜七時近くになり、日は完全に沈んでいた。自動車の近くにある自動販売機が光っている。隣接する県道は、会社帰りなのか多くの車が行き交っていた。ヘッドライトの光に私は目を細めた。
「警察に連絡したほうがいいかもな」
 母さんは返事をせず、沈んだ表情で自動販売機に小銭を入れた。コーラのボタンを押すと、受け取り口で落下する音が響く。母さんはそれを私に手渡し、自分の分の緑茶も買うと、自動販売機脇のベンチに腰かけた。
「どうしてあの子は、友達と遊ぶなんて嘘をついたのかしら」
 自動車での移動中、千秋と絢たちの喧嘩について母さんに伝えた。秘密を教えるのは気が引けたが、状況的に話すべきだと思った。
「千秋に聞くまで本当の理由はわからない。だけど千秋は失言する癖を心から反省して、直そうと思っていた。だからこそ喧嘩の発端を知られたくなかったんだと思う」
 キャップをひねると、炭酸の抜ける音が鳴った。
 千秋は不用意な発言で何度も周囲の怒りを買っている。母さんはその度に千秋を厳しく叱りつけた。忘れ物や遅刻なら、最終的に不利益を被るのは千秋自身だ。だけど失言癖は他者を直接傷つける。そのため母さんは同じ失敗を繰り返さないよう、普段以上に厳しくしていたのだろう。
 千秋は叱られるたびに反省の色を示し、二度としないと涙目で誓っていた。だからこそ約束を破ったことが後ろめたかったのかもしれない。
「そっか」
 母さんが深く息を吐く。喉元が小刻みに震えていて、私は動揺してしまう。
「どうしたんだよ」
 街灯に照らされた母さんの目元が光った。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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