よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

「私の叱り方が下手だったのよね。だから千秋は駄目なことを駄目と学べない。みんなの言う通りよ。どうすればちゃんと子育てできるのか、私は今でも全然わからない」
「母さんは今までも、子育てに口を出されてきたのか?」
「私が至らないから、見てられないんだろうね」
 街灯や自動販売機、県道を走る車など、様々な光が私たちを照らす。母さんの足元から濃さの違う影がいくつも伸びていた。
「みんなって言うけど、発達障害かもっていう指摘はなかったのか?」
 陽子叔母さんが昔、千秋の発達障害の可能性について相談したはずだ。すると母さんは居心地悪そうに目を伏せた。
「陽子さんから言われたことがあるわ。それでおじいちゃんやお父さんとも相談したの。そしたら障害のせいにするな、お前の躾のせいだろうって叱られちゃった。私が甘やかしていただけだって反省して、今まで以上にがんばるようになったわ」
「……そんなことがあったのか」
 父さんは仕事が忙しく家庭のことにあまり口出ししないが、おじいちゃんと同じ考えだったらしい。
「ごめんね、夏希」
 母さんの顔がくしゃりと歪(ゆが)んだ。
「あなたは自分と千秋が、発達障害かもしれないってずっと悩んできたのよね。だけど私は違うと思う。悪いのは全部、育児の仕方を間違えたお母さんなの。私があなたたちを、ちゃんと育ててあげられなかったせい――」
「訂正してください」
 鋭い声が飛び込んできた。顔を向けると、結が自動販売機の陰から姿を現した。フルーツの辻口に向かうことは伝えていたから、文房具店からやってきたのだろう。
「あなたは、夏希のお友達の……」
 母さんが慌てた様子で目元を拭う。いつから聞いていたのだろう。家族間の深刻な会話に出会(でくわ)して、声をかける機会を見はからっていたのかもしれない。
 結が拳を強く握りしめ、母さんを睨(にら)む。その表情を意外に思う。結は明らかに怒っていた。怒りを顕(あら)わにする結を、私は初めて見た。
「私は夏希ちゃんが大好きです」
「……は?」
 予想外の言葉に間の抜けた声が漏れる。母さんもあっけに取られているが、結は構わずに続ける。
「これまで私は夏希ちゃんにいっぱい助けられました。夏希ちゃんがいなければ、私の毎日はこんなにも楽しくなかった。本当に真っ直ぐで素敵な、私の大切な友達です」
 結の背後の県道を、大型トラックが通過した。足元がかすかに揺れ、大きな走行音が響く。だけど結の声は、それに負けないくらいの力が込められていた。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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