よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

「失敗だってたくさんするし、短所もいっぱいあるかもしれない。だけどそれも含めて夏希ちゃんなんです。それは夏希ちゃんのお母さんが、今の夏希ちゃんを育ててくれたおかげだと思います。育て方を間違えたなんて、どうか言わないでください。それで、その、えっと……」
 感情のままに口に出していたのだろう。気持ちを発散するにつれ、結が冷静になっていくのが表情から伝わった。
 話の着地点を見失ったのか、結は真っ赤な顔で深く頭を下げた。
「だからあの……。夏希ちゃんのお母さんでいてくれて、本当にありがとうございます」
 怒りの感情からはじまったはずなのに、なぜか最後は感謝で終わった。母さんは返事に窮している様子だ。
 私は結に近づき、肩に手を回した。結は耳まで赤くして、恥ずかしそうに顔を背ける。私も結の顔をまともに見られそうにないから好都合だ。
 私は母さんに笑いかけた。
「母さんが千秋や私を甘やかしたなんて間違っている。他の家のことは知らないけど、ちゃんと育ててもらったと思っているよ」
「でもね、夏希」
「最後まで聞いてくれ。私たちが問題を抱えていたとしても、それは母さんのせいじゃない。他にどうしようもない理由があるんだ。私は母さんがすごくがんばっているって知っている。だから、それ以外に考えられないんだよ」
「夏希……」
 母さんが目を伏せて黙り込む。
 結のような部外者や、私みたいな世間知らずの言葉なんて届かないかもしれない。だけど結の気持ちは嬉しかったし、私だって母さんに感謝をしている。だから私も母さんを肯定したいと思った。
 そこで結が申し訳なさそうに小さく手を上げた。
「突然出てきて、勝手なことばかり言って本当にごめんなさい。あの、千秋ちゃんの居場所を探すための手がかりを検討しましょう」
 私たちには優先するべきことがある。暗くなった以上、警察に通報したほうがいいかもしれない。だけど警察も情報なしで探すのは難しいはずだ。
 行き先はきっと隠れ家だ。情報がほしい私は母さんに質問した。
「この前、千秋が買ったものをエコバッグごと全部忘れたよな。あの日も隠れ家に寄った可能性があるんだけど、何か気になったことはないか」
「どうだったかしら」
 その日、母さんは千秋にスーパーで買い物を頼んでいた。じゃがいもと人参、特売のステーキ肉を買うようメモを渡していたという。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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