よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 帰宅した千秋は商品を忘れたと言い、どこかへ取りに戻った。気温が高かったため、母さんは肉が傷んでいないか心配したという。だけど千秋から受け取った牛肉を確認して、問題ないと判断したらしい。
「店員さんが保冷剤を入れてくれていたの。だいぶ溶けていたけど充分に冷たかったわ。それにお肉も色が鮮やかだったから」
「あっ」
 結が小さく声を上げ、焦った様子で母に詰め寄る。
「あの、ステーキ肉は鮮やかなピンク色だったんですよね。そのスーパーで買ったお肉が、今までそんな色だったことはありましたか?」
「そういえば、なかったように思う。それに全部が鮮やかだったわけじゃないの」
「詳しく聞かせてください」
 前のめりになって聞く結に、母さんが困惑しながら答える。
 その日、スーパーマーケットではステーキ肉の特売をやっていた。そこで母さんは千秋にステーキ肉を三枚買うようメモを渡した。
 だけど千秋が言うには二枚入りのパックしか並んでいなかったらしい。そこで仕方なく二枚入りを二つ買い物カゴに入れたそうだ。家族で食べた後、余った一枚が冷凍庫に入れられた。それが本日、私たちの胃に収まることになった。
「実は千秋が落としたせいなのか、片方のパックのラップが破けていたの。心配な気持ちはあったけど、見た目は鮮やかだったから大丈夫だと思ったの」
 鮮やかなピンク色になっていたのは、ラップが破けていたほうのステーキ肉だけだったという。片方のステーキ肉は、普段と変わらない色だったそうだ。
 私は手伝いのため、調理中に何度かキッチンに足を運んだ。その際に私は鮮やかなピンク色のステーキ肉だけを目にしていた。
「やっぱりそうだ」
 結が青ざめた顔でスマホを検索している。
「……千秋ちゃんが危ない」
 結が顔を上げ、母さんの車に駆け寄った。
「居場所がわかったかもしれません。お願いです。早く車を出してください」
「ちょっと待って。千秋はどこにいるの?」
 私は足踏みする母さんの背中を叩(たた)く。
「運転席に急いで」
 結が焦るのだから、きっと一刻を争う事態なのだ。母さんがキーを取り出してボタンを押す。ドアロックが解除され、私は助手席に、結は後部座席に乗り込んだ。母さんが運転席に座ると、結が背後から指示を出してきた。
「理由はすぐに説明します。千秋ちゃんの好きなパン屋さんに向かってください。えっと、老朽化したビルで営業している臨時休業の多いお店です」
「まるおかベーカリーか」
 エンジンがかかり、ヘッドライトが前方を照らした。普段より勢いよく車が発進する。バックミラーに映る結は不安げで、私の心も焦燥感に満ちていった。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

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