よみもの・連載

お料理レシピで謎解きを

第七回 熟していないジャムを煮る

友井 羊Hitsuji Tomoi

 早朝の教室は、登校する生徒たちのせいか埃(ほこり)っぽく感じる。自分の席で欠伸(あくび)をすると、結がバッグを机に置いてから近づいてきた。
「今日は早いんだね」
「たまたま目が覚めたんだ」
 忘れ物がないか確認を繰り返すせいで、家を出るのが遅くなるのはしょっちゅうだ。それに通学途中で何かに意識を持っていかれ、結局遅刻することも珍しくない。だけど私だって早く登校することくらいあるのだ。
 結が私の右手に視線を注ぐ。真っ白な包帯は痛々しいが、私は構わずに腕を上下に動かした。結が焦ったように腕を伸ばすが、触れるべきか迷っている。
「見た目は物々しいけど平気だよ。シャーペンだって持てるし、医者からも傷跡はほとんど残らないと太鼓判を押されたよ」
「それはよかった」
 結が胸に手を当てる。千秋が行方不明になったのは一昨日の出来事だ。発見後、千秋は救急車で病院に搬送された。その後も慌ただしくて、結に顛末(てんまつ)を説明できていなかった。
「千秋ちゃんは元気?」
「日曜は丸一日休んだから、今日は元気に登校していったよ。今頃は絢や鈴音と仲直りしているんじゃないかな」
 絢と鈴音にも千秋の無事は連絡した。二人は千秋と仲直りをすると改めて約束してくれた。千秋もそれを受け容れ、元通りの関係に戻れるはずだ。
 千秋は病院で検査を受けた。軽い脱水症状の他に異常は見つからなかったので入院の必要もなく、点滴を受けた後はその夜のうちに帰宅できた。私の手の怪我も縫うほどではなく、簡単な手当てで済んだ。
「一応千秋にも確認したんだが、まるおかベーカリーの隣が隠れ家だったよ」
「やっぱり合っていたんだ」
 千秋の秘密の隠れ家は、かつて鰻屋だった空き店舗だった。
 ビルの側面には通用口があり、空き店舗に通じていた。だが鍵が何者かに壊され、誰でも自由に出入りできた。
 千秋の話では見つけたときにはすでに開いていたようだ。小学四年生に鍵の破壊は無理だろうから、どこかの不届き者が破壊したのだろう。結と母さんは私が窓を壊した後、その通用口から入ってきたらしい。
 千秋は二ヶ月ほど前、まるおかベーカリーに立ち寄った。貯(た)めたお小遣いで菓子パンを買うという小学生なりの贅沢をしたのだ。
 そして買い物帰りにビルの周囲を探検した。廃ビル同然の外観が子供心をくすぐったのだろう。そこで千秋は無施錠の通用口を発見した。

プロフィール

友井 羊(ともい・ひつじ) 1981年群馬県生まれ。2011年『僕はお父さんを訴えます』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、12年に小説家としてデビュー。他の著書に『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』『無実の君が裁かれる理由』「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどがある。

Back number