よみもの・連載

軍都と色街

第二章 大湊

八木澤高明Takaaki Yagisawa

 話がいち段落すると、原田さんが遊廓時代に使われていた建物へと案内してくれた。二階建てで、一階には食器などが保管されている倉庫があり、二階に上がると、眼下には日本庭園、その向こうには釜臥山が見渡せた。そして、当時のままだという書院造りの和室があった。部屋のまわりは、客と客が顔を合わせないようにするという配慮から廊下になっている。二階には四つの部屋があったが、そのうち一部屋は、原田さんのお孫さんたちの遊具が置かれていて、遊び部屋となっていた。
「ここで『飢餓海峡』の撮影も行われたんだよ。映画の中で恐山が出てくるシーンがあるんだけども、ちょうどこの部屋から撮ったんじゃないかな」

 前日、話を聞いた越前さんの家も『飢餓海峡』の撮影に協力したということだったから、かつての小松野遊廓全体が、映画には携わっていたのだった。
 遊廓の建物を見終わると、原田さんは母親みささんの生前の姿を写したビデオの映像を見せてくれた。そこには、父親の誠一さん、かつての新盛楼、芸者などの姿があって、大変貴重なものだった。その中で私の心に特に残ったのは、みささんが地元紙に出した新聞広告だった。
 
”永年「新盛楼」として御世話を頂戴致したことを深く感謝致します。今回当局の御指導によって卒先旅館「ときわ」として発足致しました。部屋の整備と調度品は勿論其他各種設備に就きましても旅館として少しも遜色なきまでに完備して御待ち申上げ且つ奉仕させて頂きます。何卒御宿泊と御商談にどし〱御利用の程を伏して懇願申します。

 三月廿七日 
   大湊新町
   旅館ときわ
     館主 原田みさ”

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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