よみもの・連載

軍都と色街

第四章 知覧・鹿屋

八木澤高明Takaaki Yagisawa

遊廓の記憶


「戦後すぐ、パンパンという米兵を相手にする女性の人たちが出てきて、実際目にされたこともありましたか?」
「街角に立っているのは、見たことがあります。学校帰りにね。アメリカの兵隊さんが来たりするところに、たばこをくわえてね」
「戦争中の遊廓のご記憶は?」
「昔は遊廓がありましたからね。だから今、考えると、廃止されたけど若い女性を守るためにはああいう売春場、宿があったほうがよかったと思うんですよ。遊廓は川のほとり、青木町にあって、木の塀でずっと囲んであったのよ。木の塀があったことももう知っている人あまりいないですよね。高校の時、ずっとどきどきしながら歩いたことがあります。ここが遊廓街だなと思って歩いたことが。今じゃ何の面影もないですよ、もう全然なくて、家が建ち並んでどこにあったのかしら、ここが青木町の跡という印もないですものね」
「この鹿屋の町の中というのは、戦中と戦後で大きく変わっていったと思いますが、どんな点が目につきましたか?」
「そうですね、知らず知らずにだんだん変わっていく。ここがこう変わったと、目まぐるしい変わり方じゃないですね。小さな建物のデパートが、だんだん大きくなってくるなんていうのはありましたね。今は飲み屋街になっているあたりは中央市場という名前の市場でした」
「町は賑やかだったんですね?」
「私が高校を卒業する頃までは、自衛隊さんがすごかったですもんね、ここの町の辺は、もうずらずら。三千人ぐらい自衛隊の方がいたんじゃないでしょうか。私は高校を出て、鹿児島の会社に就職しましたから、その当時は帰る時でも怖いくらいでしたよ。自衛隊の方は、四時以降になったらばーっと外に出てきていました。今はそんなに出歩く人いませんけどね。自衛隊は歩いていませんよね、今は基地があるのかなというぐらいの感じですもの」

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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