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連載
空間散歩
Illustration by 米山公啓
「脳がいきいき空間散歩」第4回 米山公啓
4)陸橋の上から道路を眺める
 日常の中で視点の高さを変えることで、ずいぶん見えるものが違ってくる。
 蘇東坡が漢詩「題西林壁」に「遠近高低各不同」(見る位置でそれぞれ違って見える)と詠んでいるようにこの感覚は昔からあるようだ。
 私の場合、身長が180センチちょうど。だから身長170センチの人より、多少視点は高くなり、より鳥瞰的に見ていることになる。つまり身長によって、同じ場所でも見えているものは違ってくる。
 医者の場合、病棟ではベッドで寝ている患者さんと自分は立って話をするため、どうしても見下ろす感じになってしまう。
 だから、患者さんの視点になって接しなさいと、医学部では教育される。
 それで研修医は、ベッドで寝ている患者さんの視点まで下げるために、跪いて話を聞きなさいということになる。ならば優秀で誠実な研修医のズボンの膝はすり切れているはずだが、いまだにそんな研修医を見たことがない。
 自分が病気になってベッドに寝ていると、いつも気にならない天井のシミやら、蛍光灯の明るさが気になってしまう。視点が変わるとまるで見えるものが違ってくるのだ。病院設計者は天井の模様や蛍光灯の明るさが、患者の気持ちをどこまで変えるものか、考えたことはないのだろうか。なかなか満足できる病院の天井は存在しないし、その中で働く医者は、天井にそんな問題が潜んでいるとは気が付かない。
 視点を変えることは、同じ空間にいても、まったく違う体験をするということだろう。
 日常の中で、簡単に大きく視点を変える方法は、高いところに上ることだろう。
 身近な高いところとして、歩道橋を選んでみよう。いまさらそんな歩道橋?などと思うかもしれないが、いまさら、そんな場所を再発見することがこの空間体験の醍醐味なのだ。



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〈プロフィール〉
1952年山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学卒。同大学第二内科助教授を経て作家に転身。医学博士。専門は神経内科。著書に「使命を忘れた医者たち」「医者がぼけた母親を介護する時」「もの忘れを防ぐ28の方法」等著書多数。
著者ホームページ
http://yoneyone.com

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