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連載
空間散歩
Illustration by 米山公啓
「脳がいきいき空間散歩」第5回 米山公啓
5)森と湖に囲まれて 神山コテージ
 何かに包まれてみたいというのは、人間の根源的欲求ではないだろうか。かわいらしいものに囲まれてとか、好きな人の腕の中にとか、札束に埋もれてみたいとか、まあ、それぞれ欲望は違うが、人は自分の好きなものに囲まれたとき安堵を感じるのだろう。
 ピーナッツが好きだった私は、子供の頃、ピーナッツに埋もれたら、どんなに幸せだろうと思っていた。
 ジョニー・デップが主演した映画「チャーリーとチョコレート工場」では、人間のそんな欲求が皮肉っぽく描かれている。
 突然、緑に包まれてみたいと思った私は、急に芦ノ湖へ出かけることにした。理由は、たまたまインターネットでホテルを予約しようとしたら、そこが空いていたというだけなのだが。

・海賊船は健在
 芦ノ湖というと、はっきりいって高級感がない子供だましの観光地というイメージが強かった。
 芦ノ湖にどうやってあの海賊船を持ってきたのかという永遠の謎はさておいて、やはり緑に包まれた芦ノ湖の海賊船は健在だった。
 健在どころか新造船まで走っているではないか。日本の客船は10年近く新造船ができていない(ようやくにっぽん丸が大改造をするが)。
 芦ノ湖になぜ海賊船なのか、謎であるが、違和感というより、風景に合っていない船を平気で浮かべてしまうのが、これぞまさに日本の観光地の極みである。
 海賊船はマラッカ海峡かアフリカ近海に出没する現在の本物の海賊を除けば、海賊の本場?カリブ海でも走っていないが、海賊の歴史は意外に箱根の関所と繋がるのだ。
 というのも、17世紀から18世紀カリブの海賊は活躍するのだが、南米に進出して莫大な富を独占していたスペインに対して、イギリス、フランスが海賊たちに援助をして、略奪を行わせ、スペインに対抗した歴史がある。
 規模は違うが、箱根も関所以外を通れば、山賊におそわれてしまうので、ある意味では関所を通るように山の警備を山賊がしていたようなものだ(今で言えば警備の民営化か)。つまり芦ノ湖周辺に出没するのは、海賊ではなく山賊なのだ。などと思いつつ海賊船を眺めていても、空間体験を求める私には非常に迷惑な存在と言わねばならない。
 これでは、森と湖に包まれる感覚にはならないからだ。

湖面を疾走するロケット型船と青空。


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〈プロフィール〉
1952年山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学卒。同大学第二内科助教授を経て作家に転身。医学博士。専門は神経内科。著書に「使命を忘れた医者たち」「医者がぼけた母親を介護する時」「もの忘れを防ぐ28の方法」等著書多数。
著者ホームページ
http://yoneyone.com

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第40回
最終回に来たところ
第39回
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第38回
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第37回
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第36回
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グラバー園
第33回
都会の中で静けさに包まれる
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第6回
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第5回
森と湖に囲まれて 神山コテージ
第4回
陸橋の上から道路を眺める
第3回
直島(なおしま)にて
第2回
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第1回
ザ・コンランショップカフェにて
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