圧倒的スケールのディストピア小説
『バラカ(上・下)』 桐野夏生
津波に襲われた仙台空港がようやく復旧したと聞いて、現地に向かったのは4月の初旬だっただろうか。空港の周囲には、廃車が山のように積まれていた。どの車もひしゃげ、泥で汚れている。そして閖上地区も、一面泥に覆われていた。どぶのようなにおいが鼻につく。自動車が何台も泥に刺さったままになっていて、辛うじて残った家は片側が千切れたドールハウスのようだ。女性が一人、泥の海に向かって何か祈っていた。遠くでは、自衛隊が遺体を探す作業を続けている。二度と忘れることのできない光景に、何も言葉は出なかった。それでも、勇気を振り絞って書いたのが『バラカ』だ。言葉は無力だ。物語も嘘っぱちだ。私も力不足だ。それでも、書かずにいられなかった。──桐野夏生
- 【田口幹人さんより】
- 「虚構」と「現実」というふたつの世界をつないだパイプは、まさに原発問題の急所だった。本書は、忌わしいリアル感を読者に与えるだろう。