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くすりの裏側
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これを飲んで大丈夫?

堀越 勇
定価:500円(税込)  ISBN:4-08-746082-7

 第一章  こんなにおかしい! 日本の薬事情

 世界に比べ、こんなに多い日本の薬品数

 一九七九年、富山医科薬科大学附属病院(現・富山大学附属病院)の創設時、私は採用医薬品について薬事委員会に次のような提案を行い、了承されました。
 医薬品の採用は「ミニマムエッセンシャル(必要最小限)を原則とし、オリジナリティー(独創性)とプライオリティー(先取権)を尊重する」。また、採用するかどうかの決定は「多数決による裁決は行わず、公開討論し、採用を申請した診療科と薬剤部の間で合意の得られた医薬品のみを採用するものとする」というものでした。
 その後、一部の診療科からは「われわれの使いたい薬を薬剤部はなぜ制限するのか」というクレームが、メーカーからは「共同開発品はそれぞれ採用して欲しい」という要望が出されました。しかし、私は原則を盾にこれらを拒否したため、「鬼の薬剤部長」という大変名誉な! 渾名を頂戴してしまいました。
 そのため、私のところで毎年出版してきた「医薬品集」は収載品目数が少なく、厳選されたおかげで高い評価が与えられ、近隣の中小病院はもちろん、中央の大学病院からも参考にしていただいた経緯があります。
「エッセンシャルドラッグ(必要最小限の薬)」を使うという姿勢は、世界の先進国ではすでに共通の認識で、なぜかその点では日本だけが取り残されているという思いがしています。
 そもそもエッセンシャルドラッグとは、世界の国々が自国の医療に不可欠な医薬品を選ぶ際のたたき台にと、WHO(世界保健機関)が示したものです。初めは開発途上国へ医薬品を援助するためのガイドラインでしたが、考え方の根本は「国民の健康を守るために、最小の出費で量大の効果をあげる」という理念に基づくもので、先進国でも通用するものです。とくに医療費が保険財政を圧迫している日本では、もっと利用されていいのではないでしょうか。
 エッセンシャルドラッグとしてリストアップされている薬はわずかに三一二種類、それに比べて日本では商品名で一万七〇〇〇種類、成分数で約二四〇〇種類もあります。この中には、日本でしか使われていない薬もあります。この数字を見ていると、最低限必要な薬というものがこんなにも少ないのかと驚かされると同時に、日本の医療用医薬品の多さにも驚かされます。
 日本でこんなにも薬が多くなっている理由は、薬の特許が物質ではなく製造法だったので外国で出来た新薬をすぐまねすることができたからですが、今は物質特許に変更されています。
 私たちには「新薬とは、既存の同効薬よりも優れていて、副作用が少ないから高価なのだ」という認識があります。質の良い医療には、最新の高価な薬を使うことが必要なのだと考えがちですが、実は「よい薬イコール高価な新薬」ではないのです。新薬は充分な使用経験がないので、重篤な副作用などの情報が少ないのが普通です。それなのに、日本では新薬のほうが尊重されていて、それは、日本人が薬好きだからです。
 一般に、薬の価格や保険薬価は長く使われている薬ほど安くなっています。ドイツでは古い薬、世界的に評価の定まった薬が、全ての薬剤費の九〇%を占めているのに対し、前世紀末の日本ではドイツの約五〇%(半分)だそうです。日本もドイツ並みに古い薬を使えば、数兆円の節約になるはずです。
 エッセンシャルドラッグを使うメリットは、世界共通の薬であるため、世界のどこでも処方してもらえること。医師は薬の名前を商品名でなく、一般名で書けること。薬剤師は患者に安価で、安全有効な剤型を選べること、などがあげられます。
 日本でも新しい薬をありがたがる姿勢から早く脱却して、エッセンシャルドラッグを使う医療へと意識改革してほしいものです。これが実現すれば、医薬分業が一層推進され、薬剤費の節約になるはずです。それで浮いたお金は、介護に回したらいかがでしょう。

 
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