八木圭一「手がかりは一皿の中に」特設ページ

アラサー 彼女なし 実は御曹司 探偵はグルメライター!難事件を解決するため、全国の美食を食べまくる!飯テロ被害者続出の大人気グルメミステリー!アラサー 彼女なし 実は御曹司 探偵はグルメライター!難事件を解決するため、全国の美食を食べまくる!飯テロ被害者続出の大人気グルメミステリー!

手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑

手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑

前代未聞、牛の誘拐事件! ご当地グルメを開発するため、鹿児島県の徳之島に来ていたグルメライターの北大路亀助。島民が熱狂する闘牛大会直前、横綱級の闘牛・亀之助が誘拐されてしまう。要求されたのは一千万円の身代金。亀助が事件の真相を探ると、予想外な展開に……。

一休.comお墨付き!

定価:本体670円+税
文庫版:336ページ
ISBN: 978-4-08-744005-8
装丁:西村弘美/装画:げみ

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手がかりは一皿の中に

手がかりは一皿の中に好評発売中!!

あの一皿にヒントが隠されていたのか──。
ある夜、グルメライターの亀助は先輩の河口に誘われて食通のメンバーと絶品の熟成鮨を堪能していた。だが、メンバーの一人がその直後に死亡し、店が食中毒を疑われる事態に。閉店を迫られる店主を救うため、亀助は持ち前の味覚を駆使して、犯人探しをはじめる。

定価:本体660円+税
文庫版:352ページ
ISBN: 978-4-08-745747-6
装丁:西村弘美/装画:げみ

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主な登場人物

北大路亀助
北大路亀助主人公
グルメサイト“ワンプレート”の人気グルメライター。「グルメ探偵」の名でレシピの謎解きをするキャラクターを売りにしているが、いくつもの難事件を解決し、もはや本物の探偵になりつつある!? 銀座にある老舗料亭《中田屋》の御曹司。
北大路鶴乃
亀助の姉。検事。マイペースな亀助を叱る母親的存在。
河口仁
亀助の大学時代の先輩。現在は弁護士。ワインが大好きで“ソムリエ”と呼ばれている。亀助の良き相談相手。
荒木奈央
銀座でエステサロンを経営している。銀座を拠点に美食家が集まって結成されたグルメサークル〝G5″で亀助と知り合う。恋人の小室と結婚間近。
島田雄輝
“ワンプレート”のやり手社長。北海道弁で話す。亀助の才能を見抜き、“ワンプレート”に引き抜いた。
桜川・山尾
築地署の刑事。事件解決に奔走する亀助の味方。

深夜に読むとキケン!?作中には美味しそうな料理がズラリ!美食と謎解きのマリアージュ、どうぞお召しあがりくださいませ!深夜に読むとキケン!?作中には美味しそうな料理がズラリ!美食と謎解きのマリアージュ、どうぞお召しあがりくださいませ!

手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑
『手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑』発売記念スペシャルコンテンツ
作品の中に登場する、グルメサイト“ワンプレート”。
通称“ワンプ”の人気ライターであるグルメ探偵・亀助の記事を紹介!
作品に登場する店、モデルとなった店など
本シリーズの読者にはたまらないスペシャルコンテンツ!
※ワンプレートは実在しません。※掲載店の許可を得ております。※著者が実際に訪れて食べて書きました。

グルメ探偵・亀助

八丁堀/ガール・ド・リヨン

「パリの空気感まで味わえるワインビストロに潜む陰謀を暴く」

『手がかりは一皿の中に』第一話

 八丁堀の人気ビストロ「ガール・ド・リヨン」に17時の開店と同時に、一人で滑り込んだ。外観からしてパリを思わせる雰囲気で、店内にはフランス語のラジオ放送が流れている。理解はできないが、まるで本場のパリにいるようで、心地が良い。

 八丁堀の人気ビストロ「ガール・ド・リヨン」に17時の開店と同時に、一人で滑り込んだ。外観からしてパリを思わせる雰囲気で、店内にはフランス語のラジオ放送が流れている。理解はできないが、まるで本場のパリにいるようで、心地が良い。

 今日は、大学時代からの先輩と飲む約束なのだが、仕事で遅れると言うのでそれまで一人で飲むことにした。弁護士の先輩は、ワインエキスパートの資格を持つほどワインが好きで、このお店にも、2人で訪れることが多い。

 店長の澤口さんが、「泡からにしますか?」と言うので笑顔で返す。すると、「最近は、中国など海外に買い負けてしまって、日本に入ってくる本数が減っているんですよね」と言いながら、〝クリストフ・ルフェーヴル〟を出してくれた。

 系列店では、東銀座、築地界隈にビストロの「ポンデュガール」、イタリアンの「テルミニ」「マチルダ」「ジジーノ」などがある。どのお店もワインの品揃えが豊富で、常時150本近く置いてあるそうだ。店長はじめ、スタッフのみなさんがワインに詳しいので、料理との最適なマリアージュのワインをレコメンドしてくれる。

 名物は、白レバームース、パテ・ド・カンパーニュだが、それらをワンプレートに載せた一皿がある。〝シャルキュトリーの盛り合わせ〟だ。
 生ハム、白レバームース、パテ・ド・カンパーニュのほかに、梅山豚リエット、サラミ、イベリコ豚チョリソー、豚タンのスライス、ピクルスが盛り付けられている。

 ワンプレート! これぞ、僕が運営に関わっているグルメサイトの名前だ。
 社長たちが、漫画『ワンピース』を好きだということもあり、伝説の秘宝グルメを冒険しながら探すというコンセプトで〝ワンプレート〟、通称〝ワンプ〟と名付けられた。

 さて、このワンプレートの白レバームースには、ブルーベリーのソースがかかっている。爽やかな酸味が変化をもたらすので、バケットにつけながら楽しむ。
 サラミにはポツポツと見える黒い斑点。
 これは……。僕のレシピが正しければ、黒トリュフが練りこんである。
 チョリソーの方の赤い点は、赤唐辛子だろう。豚タンのスライスに載ったソース。
 これは……。肉汁にマヨネーズやレモンを加えたものだろう。2杯目にレコメンドされた〝タヴェル ロゼ〟が進む。

 ガール・ド・リヨン(リヨン駅)といえば、パリ12区にあるヨーロッパ最古の駅の一つだ。駅構内には「ル・トラン・ブルー」という伝説のレストランがある。1901年創業で、ヴェルサイユ宮殿を彷彿(ほうふつ)とさせる煌(きら)びやかな内装が特徴的で、古き良き時代のフランスの文化を色濃く残す。

 リヨン駅に、あのレストランに、気軽に行けるものなら行きたいところだが、時間もお金もかかる。だから、東京駅からも、銀座からも歩けるこのパリのビストロで、ビオワインを片手に美食を楽しむとしよう。
 は! そうか、それこそが真の狙いだったのか。
 罪深きオーナーの陰謀をついに暴いてしまった。

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グルメ探偵・亀助

二子玉川/すし 㐂邑(きむら)

「熟成された職人技が織りなす魔法を暴く」

『手がかりは一皿の中に』第一話

 二子玉川駅に降り立ち、とあるグルメサークルで知り合った不動産業の澤田さんと一緒に目的の店に向かって歩を進める。今日のお目当ては〝すし 㐂邑〟が提供する熟成鮨だ。

 二子玉川駅に降り立ち、とあるグルメサークルで知り合った不動産業の澤田さんと一緒に目的の店に向かって歩を進める。今日のお目当ては〝すし 㐂邑〟が提供する熟成鮨だ。

 すでにミシュランの2つ星を持っているが、近いうちに三つ星になり、さらに予約が困難になると確信している。僕は今日で3回目だが、今のうちに少しでも店主の木村康司さんと距離を縮めておきたい。

 かつて、江戸前寿司は、輸送手段も、冷蔵・冷凍技術もなかった時代、職人の目利きと技、創意工夫によって成立していた。本来、ネタの鮮度がすべてではないはずなのだ。

 予約した19時の5分前に到着すると、前の時間帯の客が幸せそうな表情をして出てきた。入れ代わりに入店するとさっそくCOEDOビールをオーダーする。
 コースはただ一つで、店内の全員、同時刻にスタートする。

 たった一人で10席を守る店主の木村さんは、旬のネタを限界まで寝かせる。店の代名詞とも言える〝マカジキの漬け〟は、なんと熟成期間が2ヶ月に及ぶこともある。最初に食べたときは衝撃的だった。サシの輝きと、ほのかに発酵の香りを放つマカジキを咀嚼(そしゃく)すると、舌にねっとり纏(まと)わりつく濃厚な旨味(うまみ)が溢(あふ)れ出す。

「うちでしか味わえない鮨を作りたい」と目を細めた木村さんの矜持(きょうじ)と技量に頭が下がり、胸が熱くなった。

 握りの前には趣向を凝らした序章があり、こちらも独創的な作品ばかりだ。雲丹(うに)蕎麦、虎河豚のお椀、白子のリゾット……。存分に堪能する。そして、ずっと心待ちにしていた一皿が出される。〝ワタリガニの塩辛〟だ。

 きた。ついに、夢にまでみた〝ワタリガニの塩辛〟だ!

 腸(はらわた)の原色が目を引く甲羅付きの塊で、並の塩辛とは似ても似つかない。お上品に箸で食べるのかと周囲を窺っていると、木村さんが「手で持ってかぶりついてください。どうぞどうぞ」と、笑ってくれたので安心して、ガッと右手で蟹を捕獲した。

 ドキドキしながら、齧(かじ)りつくと、とろりと軟らかい蟹身の新鮮な甘み、蟹味噌や内子(うちこ)の旨味の奥に、すっきりとした塩気……。そして、ブランデーや山椒(さんしょう)が絡み合う芳醇(ほうじゅん)な風味が広がっている。

 他のお客が帰ってから、質問をする。中国の〝酔蟹(スイシエ)〟や、韓国の〝ケジャン〟に着想を得たそうで、なんと、完成まで2年を費やしたそうだ。
 この一皿に象徴されるように、木村さんは鮨の既成概念に囚(とら)われることなく、世界中の美食を手がかりにしながら、素材の魅力を極限まで引き出す術(すべ)を常に模索し続けている。
 目利きを生かして選んだ素材に、想像力と技術力を融合させて無二の価値を生む。

 また、今日も罪深き職人の魔法を暴いてしまった。だが、そこに大きな意味はない。この魔法から逃れることはできず、僕はこれからもこの店に通い続けるのだろう。

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グルメ探偵・亀助

帯広/農家直営の居酒屋 大地のあきんど

「豪快な農家料理に秘められた物語を繙(ひもと)く」

『手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑』第一話

 NHK連続テレビ小説『なつぞら』の舞台として脚光をあびる十勝。その中心地である帯広市にやってきた。帯広のグルメといえば名物は〝豚丼〟や〝スイーツ〟だ。以前訪れたときは帯広駅前の豚丼屋「ぱんちょう」に並んで堪能した後、「六花亭」本店のカフェで限定メニューのケーキをペロリと平らげた記憶がある。

 NHK連続テレビ小説『なつぞら』の舞台として脚光をあびる十勝。その中心地である帯広市にやってきた。帯広のグルメといえば名物は〝豚丼〟や〝スイーツ〟だ。以前訪れたときは帯広駅前の豚丼屋「ぱんちょう」に並んで堪能した後、「六花亭」本店のカフェで限定メニューのケーキをペロリと平らげた記憶がある。

 さて、今回は”ワンプ”初のグルメイベントの一環で十勝産の食材を使った料理を楽しめる居酒屋を探していたところ、「大地のあきんど」を紹介された。帯広市大正の農家が営むという。

「あそこのフライドポテトを食べたら、フライドポテトの概念が変わる」と言われたのだ。ジャガイモ好きのグルメ探偵としては、真偽を確かめないわけにはいかない。ボスである島田とともに、店に潜入した。一般的には、外はカリカリで細長いイメージだが、果たしてどんな一皿が待っているのか。

 1杯目を頼もうと、メニューを開くと、大正メークイン地ビール「おいものおもい」という、じゃがいもの地ビールが目に飛び込んだ。島田と「これにしよう」と意見が一致する。
 早速、iPhoneで検索したが、他では見当たらない。〝大正農協JA青年部〟のホームページに辿(たど)り着いたが、地ビールプロジェクトの動画があった。若い生産者が中心になり、形が悪いなど規格外のメークインを生かす方法を考えて作られたのだそうだ。

 運ばれてきた瓶ビールをグラスに注ぐと、色味からしてすでにジャガイモを感じる。島田と乾杯して喉を潤す。苦味は少なめか。どこか優しさを感じる。やはり生産者の顔が見えて、ストーリーがある食べ物、飲み物に魅(ひ)かれるのは人間の本能だろう。

 そして、ついにお目当てのフライドポテトが、やってきた。
「で、でかっ!」。なんという豪快感。半分にぶつ切りにして揚げたのだろう。外と中で味わいが異なるが、油でコーティングされた断面が少なく、よりダイレクトに素材の味を感じられる。メークインだけに、しっとりとした食感で甘みが強い。

 それにしても、このフライドポテトは300円。一緒に頼んだ長いものお好み焼きは400円。東京の価格と単純比較できないとはいえ、農家直営でしか実現しない価格設定になっている。帰り際、店長の高道隼人さんに感動体験を伝えて挨拶した。オーナーであるお父さんは現役の農家で、長男であるお兄さんたちと日々、野菜を作り続けているそうだ。
「実家で作っている新鮮な野菜が売りですから。少しでも早くお客様に提供したいという思いがあるんです」とのこと。やはり、ここにもストーリーがあるのか。

 そうか、謎はすべて解けた。なぜ、たった2切れのフライドポテトが誕生したのか。「新鮮な素材の良さを生かしたい」そうなると、調理方法は自ずとシンプルにスピーディーになる。
 僕のレシピが正しければ、あのフライドポテトの半分はでんぷん質で、残りの半分は、家族の愛だ。
 また、ひとつ、一皿に秘められた真実を暴いてしまった。
 店を出て空を見上げると、夏空に満月が浮かんでいた。

 父さん、十勝は空が近くて、月が綺麗(きれい)だよ。

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グルメ探偵・亀助

自由が丘/ポテトサラダ専門店 Potato Cream

「見たこともないオシャレなポテサラの誕生秘話を暴く」

『手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑』第一話

 東京でも屈指のオシャレな街・自由が丘を訪れた。駅を出るとハイブリッドバイク〝グラフィット〟に乗った男性とすれ違った。実は僕も〝グラフィット〟を愛用している。デザインが洗練されていてオシャレなので、気に入っているのだ。同じセンスを持つ男性に親近感を覚え、歯を見せて会釈すると怪訝(けげん)な顔をされた。

 東京でも屈指のオシャレな街・自由が丘を訪れた。駅を出るとハイブリッドバイク〝グラフィット〟に乗った男性とすれ違った。実は僕も〝グラフィット〟を愛用している。デザインが洗練されていてオシャレなので、気に入っているのだ。同じセンスを持つ男性に親近感を覚え、歯を見せて会釈すると怪訝(けげん)な顔をされた。

 さて、今日の目的は、ポテトサラダ専門店の《ポテトクリーム》だ。こちらの店で出す、新感覚ポテトサラダ「ポテトクリーム」が流行っていると聞き、ジャガイモ好きなグルメ探偵としては居ても立ってもいられず、さっそくお邪魔した。

 まずは店頭でオーダーをする。ポテトサラダは5種類ある。

・ナスとひき肉のトマトポテトクリーム
・かぶと鶏肉のゴルゴンゾーラポテトクリーム

 上記の2つがレギュラーメニューで、他の3つは季節によって変わるそう。
商品は全て550円(税込)で、良心的な価格だ。

 僕は「かぶと鶏肉のゴルゴンゾーラポテトクリーム」を選んだ。
 お店の方が「セットにするとバケットが付いてきますよ」と仰(おっしゃ)ってくださった。
 店先には香ばしいバケットの香りが漂っており、ポテトクリームと一緒にいただきたいところだが、こちらはダイエットをしている身である。しかも、午後3時の完全なる間食だ。ここはぐっと堪(こら)えて、バケット付きのセットは外す。

 店内は7、8人くらいが入れそうな広さがある。木のカウンターが設置してあり、スタンディング形式だ。そして、シェフが目の前で調理をしてくれる。
 まずは、カップにマッシュポテトを入れる。これはすべてのメニューで同様なのだろう。その上に、ソースをかけた。上に添えてあるのは、おそらく香辛野菜の〝ディル〟だと思われる。

 そして出来上がった一皿を見て、衝撃を受けた。
 なんて斬新な! ポテトサラダがこんなにオシャレになるなんて……。

 さっそくスプーンを入れる。温かみがあり、ゴルゴンゾーラの旨味がマッシュポテトに良く合う。なめらかで、マイルドだ。カブは軟らかくなるまで煮込んである。鶏肉の他に、歯ごたえのある枝豆が入っていて食感も楽しめる。これは「新感覚ポテトサラダ」の呼び名に相応しい。

 マッシュポテトは練りこむことでクリーミーさを出したのだと思われるが、このジャガイモ……。僕のレシピが正しければ、北海道・十勝産の〝キタアカリ〟ではないだろうか。

 店主に聞いてみると、「うーん……。十勝産かどうかまではわからないですが、北海道のキタアカリを使うことが多いですね。季節によっては、他の産地のものを使うこともあります」とのこと。

 それにしても、お店の外装や内装、ロゴやショップカード、ナプキンのイラストに至るまで、こだわりを感じる。どこを撮ってもSNS映えしそうなオシャレな空間なのである。

 僕が「デザイナーさんに依頼されているのですか?」と尋ねると、「いえ、自分たちでやっているんです」とのこと。そして、そのとき、かわいい赤ちゃんを抱いたオシャレな女性がお店に入ってきた。

「妻です」
なるほど、謎がすべて解けた。
「もしかして、お2人の前職はデザイナーさんですか?」と尋ねる。
「よくわかりましたね」と、2人が白い歯を見せる。
 そういうことか。この2人でなければ、この新しいポテトサラダや、オシャレな空間は誕生しなかったに違いない。

 またひとつ、罪深きシェフの魔法を暴いてしまった。

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グルメ探偵・亀助

築地/ふく竹 本店

「唯一無二のオリジナル鍋に秘められた謎を暴く」

『手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑』第二話

 いつも何かと世話になっている警視庁築地署捜査一課のY刑事とS刑事を誘って、築地にある「ふく竹 本店」を訪れた。博多に拠点を持つ明太子メーカーの老舗「かねふく」が運営する九州料理の店だ。明太子の〝天ぷら〟に〝チーズ揚げ〟、〝炙り太っ腹明太子〟、〝明太子ウィンナー〟〝出汁巻明太〟など、明太子料理の品揃えは他に比類ないだろう。

 いつも何かと世話になっている警視庁築地署捜査一課のY刑事とS刑事を誘って、築地にある「ふく竹 本店」を訪れた。博多に拠点を持つ明太子メーカーの老舗「かねふく」が運営する九州料理の店だ。明太子の〝天ぷら〟に〝チーズ揚げ〟、〝炙り太っ腹明太子〟、〝明太子ウィンナー〟〝出汁巻明太〟など、明太子料理の品揃えは他に比類ないだろう。
(刑事さんとの会話は機密情報を含むため、一切書けないので悪しからず!)

 明太子料理だけではない。長崎から取り寄せた新鮮な刺身や熊本の馬刺しなど、九州料理を堪能できる。しかも、飲み放題付きで5000円程度とコストパフォーマンスも良い。
 ただ、誰と来ようが、ここの主役は〝明太もつ鍋〟だ。

「いやあ、こんな素敵なお店を探してくれるなんてさすがグルメ探偵ですね!」とY刑事に持ち上げられたが、2009年のメニュー誕生以来〝明太もつ鍋〟のインパクトは絶大で、メディア露出も多いだけに「朝飯前ですよ」と言って笑った。

「それにしても、おじいさま、お父さまが警察官なのに、亀助さんがグルメ探偵の道に進まれたとは……」とY刑事に言われて、僕は苦笑いした。
 昔から、友達にも親戚にも「刑事と警察官僚、どちらになるの?」と聞かれた。父方の祖父は京都府警の刑事だったし、父親は警察庁にいるのだ。だが、僕は大学卒業後、出版社に入って文芸の編集者になり、その後、“ワンプ”のライターになった。「母方の祖父は食い道楽でしたから」と笑って返す。母親の実家は料亭をやっていて、その祖父も長らく経営者だったのだ。

 ここで主役の〝明太もつ鍋〟がやってきた。毎回、感じることだが、他が(まね)できない唯一無二の鍋である。他の店で何度か、明太子の入ったもつ鍋を頼んだことがあるが、比較してしまうとクオリティが雲泥の差なのだ。そもそも、博多に昔から〝明太もつ鍋〟があったわけではない。「ふく竹」が考案した元祖の料理なのだ。

「かねふく」の明太子がふんだんに使われているだけではない、それだけでは、この味にはならない。もつ鍋の上に明太子を載せればこの鍋になるかと思ったら大間違いなのだ。

 僕のレシピが正しければ、この〝明太もつ鍋〟用に、お店では「かねふく」の明太子の味付け、状態を改良している。鮮度と熟成のバランスが鍵になるが、この調整は明太子メーカー直営だからこその、なせる技なのだ。

 もちろん、明太子だけではなく、もつ鍋もこだわり抜かれている。入っているもつは、丁寧な下処理をした小腸、大腸、ハツ、ギアラの4種類で、新鮮なものだけを使う。野菜はキャベツ、ニラ、ゴボウ、エノキなどである。

 あらゆる素材のクオリティが高いのだ。そして、昆布だしが気付くか気付かないかの程度で効いている。これが効き過ぎたら、明太子と戦ってしまうだろう。だからこそ、たっぷり入った明太子の旨味、そして野菜や、もつの甘みが溶け合い、至福のカオスと化すのだ。

 しめの〝おじやセット〟は、チーズと刻みのりをトッピングしたリゾットで、これが最後のだしを閉じ込めるフィナーレとして相応しい。

 明太子といえば、もともとは朝鮮半島から、交流のあった福岡や下関へと伝わった料理だ。だが、日本人の味覚に合うよう工夫がなされ、広がってきた歴史がある。韓国に〝コプチャンチョンゴル〟と呼ばれるもつ鍋料理は存在するが、僕が調べた限り、〝明太もつ鍋〟はないようだ。明太子メーカーが運営する居酒屋が、明太子の可能性を探る中で誕生したわけで、「ふく竹」が生み出した必然性がここにある。

 また、ひとつ、罪深き極上グルメ誕生の謎を暴いてしまった。

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グルメ探偵・亀助

日比谷/SALONE TOKYO

「オリーブオイルを愛してやまない天才シェフの秘密を暴く」

『手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑』第四話

 想いを寄せる女性とデートをすることになり、東京ミッドタウン日比谷三階のモダンイタリアン「SALONE TOKYO」を選んだ。横浜山下町、南青山、大阪中之島などに本格派リストランテを展開し、山形県南陽市の自社農園とワイナリーで自然派ワインも作っている〝サローネグループ〟が、東京ミッドタウン日比谷の開業と同時にオープンさせた旗艦店だ。

 想いを寄せる女性とデートをすることになり、東京ミッドタウン日比谷三階のモダンイタリアン「SALONE TOKYO」を選んだ。横浜山下町、南青山、大阪中之島などに本格派リストランテを展開し、山形県南陽市の自社農園とワイナリーで自然派ワインも作っている〝サローネグループ〟が、東京ミッドタウン日比谷の開業と同時にオープンさせた旗艦店だ。

 エントランスからゴージャス感が漂う。天井が高く、ゆったりとした造りで、総席数36席だけなのだから、なんとも贅沢な空間だ。
 案内された席に着くと、目の前の美しい飾り皿の上には、縦長の白く大きな封筒が置いてある。開くと、本日のコースとワインの紹介が記された便箋が入っている。全11皿で、コースのタイトルは〝デグスタツィオーネ〟だ。直訳は「味見」や「試食」で、意訳すると「シェフのオススメ料理を少量ずつお試しいただく」といったニュアンスだろう。

 茹でタコ、赤海老のアニョロッティ、鮪(まぐろ)ブレザオラ ピスタチオのブリュレ、ズッパ ディ ペッシェ、ビゴール豚カツ、カッペレット イン ブロード、アーティチョークのスフォルマート、タリオリーニ 乳飲み仔羊のストゥファート トレヴィス、短角牛のアッローストなど、随分と凝った料理が並んでいる。

 1皿目の〝茹でタコ〟がやってきた。ゴールドの飾り皿の上に、ガラスの小鉢が載っている。そこに白い泡がこんもりと盛られていて、主役のタコは一切見えない。スプーンで掬(すく)うとやっと、タコの足が顔を出した。白い泡を口に含むと貝類のエキスを感じる。泡を黄色に染めるオイルには柑橘系の酸味があり、爽やかなアクセントになっている。オレンジソースだろう。

 1皿目からこれだけ凝っているとは。これから始まる物語がどれだけ期待を持たせてくれるのか──。

 ほどなく、サローネグループの統括料理長も務める樋口シェフが各テーブルを回りながら、パンをサーブしにやってきてくれた。香水のボトルを思わせるオリーブオイルは、シチリアの最高級ブランド、バルベーラ社〝ロレンツォ〟の有機エキストラ・ヴァージンの3番だ。
 巷(ちまた)のスーパーマーケットで売っているワインより高い。

 つい、好きな女性の前で背伸びして〝違いのわかる男〟アピールをしたくなり、「ロレンツォの3番とは……。贅沢(ぜいたく)ですね」と言ったところ、途端に樋口シェフが目を輝かせて、ロレンツォの1番と5番を出して「ぜひ、食べ比べをしてください」と言ってくれた。ロレンツォの食べ比べなんて経験できると思わなかった。

「香りを楽しみながら、たっぷりパンにつけて召し上がってください。もうね、私はバルベーラのオイルが大好きで、大好きで」と、ロレンツォ愛を語り出した。目の前のゴールドのお皿よりも目をキラキラさせている……。「初代が〝臼挽き〟で作ったのが1番。〝打ち潰し〟で作ったマイルドなのが3番。そして、今は4代目ですけど、5代目のために、〝種ぬき〟で作ったのがこの5番です。壮大なロマンがありますよね」と、止まらない……。

「すみません、ちょっと、特別な魔法を使っていいですか?」と言いながら、瓶を取り出して、粉末をオイルにかけてスプーンで馴染(なじ)ませる。その瓶に見覚えがあった。カプリ・クロッカンテ……。シチリア島の南に浮かぶ小さな島。パンテレリア島、Kazzen(カッゼン)社のケッパーだ。花の実で作った塩漬けをフリーズドライにしてパウダー状にしたものだ。
「もうね、ケッパーの塩気が食欲を刺激して、止まらなくなりますよ。ロレンツォのオイルがさらに引き立つんです」

 かつて、これほどオリーブオイルを愛した人が、速水もこみちさん以外に、いただろうか。
 そうか、わかってしまった。僕のレシピが正しければ、樋口シェフの前世は、シチリア島のオリーブ……。いや、オリーブの妖精だ。
 またひとつ、罪深い天才シェフの秘密を暴いてしまった。

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手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑

手がかりは一皿の中にご当地グルメの誘惑

八木圭一

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手がかりは一皿の中に

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八木圭一
八木圭一 (やぎけいいち)
1979年、北海道出身。2013年『一千兆円の身代金』で、第12回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。同作は2015年にフジテレビでドラマ化された。近著に『手がかりは一皿の中に』『北海道オーロラ町の事件簿 町おこし探偵の奮闘』がある。