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販売担当おみこしオススメの本 『隣はシリアルキラー』 中山七里 著
販売担当おみこしオススメの本

作品制作・写真/金沢和寛

これまで様々な映画や小説、アニメ・漫画等に触れてきた中で、自然と私の中に醸成された、ある種の固定観念というか、認識の1つに「この世で最も恐ろしいのは亡霊でも怪異でもなく人間」というものがあります。これは自身にとって最も距離感の近い生物であるにもかかわらず、その実態や全容までは把握できない「正体不明」感への恐怖に近いです。物語に触れた際、この災厄は自身にも降りかかるかもしれない、という可能性が高ければ高い程に、より強い恐怖を感じるものだと思います。
 という訳で今回は身近な「隣人」を起点に巻き起こるホラーミステリーをご紹介させていただきます。この文章を執筆している今現在、そして掲載される時期共に、真夏の猛暑真っただ中かと思いますので、背筋がゾクリとするような「涼」、汗は汗でも冷や汗をかくような読書体験をお楽しみいただければと思います。


ぎりっ、ぎりっ。ぐし、ぐし。ざああああっ──。深夜2:20、工場に勤める主人公・神足友哉は、今日も寮の隣室から聞こえてくる不気味な物音に悩まされていた。それはシャワー音だけでなく、何かを切断するような音まで交じっていた。巷では未解決のバラバラ連続殺人事件が起こっていて、隣室に住む外国人技能実習生・徐浩然がその犯人なのではないか、という疑念が生まれる。ある日、意を決して徐を尾行する神足。そこで目撃したのは、工場裏のゴミ集積場に人間の腕を捨てる徐の姿だった。しかし神足は警察に助けを求めることができない。なぜなら誰にも知られてはならない過去があったから……。


導入時点で、読者はこの恐ろしい世界観へと一気に引きずり込まれてしまうことでしょう。オノマトペ単独で、ここまでの恐怖心を掻き立てられるのは久々の体験でした。漫画や映像作品ではない、文字だけの視覚情報だからこそ、否応なしに最悪の光景を頭の中で思い描いてしまうのだと思います。ネタバレにつき、多くは語れませんが、その後も次々と目が離せない展開が続く為、時間を忘れて読み進められること間違いなしです。
また、本作では前科ある者の苦悩、外国人労働者の待遇、戸籍の曖昧さ等、多くの社会問題についても描かれており、怖い、面白いだけではなく、考えさせられるような場面にも度々出会います。そして、読み進めた果てで遂に迎えるクライマックス。皆さんは、中山七里先生が「どんでん返しの帝王」と呼ばれる所以を目の当たりにすることとなります。タイトルや冒頭場面のおどろおどろしさからは想像もつかない位、最後には一種の希望や温かみすら感じられるような読後感が待っています。


作中の仕掛けとして、他のシリーズ作品に登場していた人物がゲストとして数名出てくるので、今作が中山七里先生の作品群へ手を伸ばすきっかけになってくれればと思います。また、文庫と単行本との書影差異も、大変素晴らしいアクセントになっています。特に文庫のカバーは、何てことは無い、よく見かけるはずのアパートの一角を不気味に切り取ることで、作品の世界観が巧みに表現されています。私も本作を読んだことで暫くの間、夜の自宅周りがとても恐ろしい空間に見えてしまいました。しかし同時に冷房代を節約することも可能かと思いますので、今夏は是非ご一読の上、涼まれてみてはいかがでしょうか?

プロフィール
  • おみこし
  • 学生時代はアメフトとアカペラを兼部していた熱血漢。オフでは運動全般、カラオケ、飲み会をこよなく愛するお祭り男。しかしてその実体はエンタメで白米3合を平らげる雑食系男児。
  • サスペンス、SF、ダークファンタジーが大好物。物語の世界観や、意外な展開に翻弄されていたい性分。TVゲームの腕前や知識、洋画への愛には自信あり。作品に自分ごと没入していくタイプ。文芸という大海を冒険・開拓していくためにも日々奮闘中!
過去のオススメ!
  • 2023.07.21new 隣はシリアルキラー 中山七里 著
  • 2022.11.18 梟の一族 福田和代 著
  • 2022.06.17 早朝始発の殺風景 青崎有吾 著
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