よみもの

集英社文庫創刊40周年特別企画
パーフェクトワールド刊行記念インタビュー
馳星周 歪みと熱気の沖縄返還前夜
◆歪みと熱気の沖縄返還前夜◆ 馳 星周 hase seisyu
「週刊プレイボーイ」で連載された幻の傑作ノワール
『パーフェクトワールド』が、10年以上の時を経て
ついに刊行された。返還前夜の沖縄を舞台にした本作で、
馳星周は何を描こうとしたのか?
日本への返還を翌年に控えた「一九七一年の沖縄」を舞台にした本書は、上下巻で千五百枚に及ぶ大作です。執筆はかなり昔だったそうですね。
書いたのはもう十年以上も前です。僕は二〇〇六年に軽井沢に引っ越したんだけど、東京にいた最後の頃、二〇〇四年くらいから「週刊プレイボーイ」で連載していたんですよ。二年ほど連載していたのでいったん終わらせて、後で少し書き足して本にするつもりだった。ところが、その頃はメチャクチャ忙しかったから全然時間が取れなくて、そのまますっかり忘れていたんです(笑)。それが去年の秋になって、当時担当だった編集者から突然、「本にしましょう」と。
読み返してみたら結構うまく書いてあって、「さすがワシじゃ」っていう(笑)。大きく書き直す必要はなかったけど、連載はクライマックスの暴動のところで終わらせていたので、その後のエピローグ的な部分を三、四十枚ほど書き足した感じです。
ボリュームがあっても決して冗長ではありません。密度も濃くて、読んでいて情報量に圧倒されました。やはり、そうとう沖縄で取材されたのですか?
結局、沖縄には十回くらい行ったのかな。とにかく大量に資料を集めたし、普通の日本人には知られていない話が多くて、「全部伝えたい」という気持ちもあったんだろうと思います。向こうには沖縄タイムスと琉球新報という新聞社があるんですけど、当時の東京では返還前の六五年から七〇年ぐらいまでの縮刷版が手に入らなくて。現地でそういう資料を集められたことはとても有意義でした。  
初めての取材では真っ先に嘉手納基地に行きました。とんでもないですよ。なにしろ嘉手納町の総面積のうち、八〇パーセント以上を基地が占めているんですから。「みんな、海で遊んでばかりいないで基地を見に行けや」と思ったものね。  これは余談だけど、沖縄の人たちの南国気質というのも予想以上でした。例えば一九七〇年のコザ(現・沖縄市)で、コザ騒動というのがあったでしょう。コザで昔からある酒場に行って、六十代くらいの当時を知っていそうな人に話を聞くと、みんな「どうだったかな?」と忘れちゃってるんです。「コザ騒動ね。あのときすごかったんだよ、車なんかみんなひっくり返されてさ!」と言う人がいたから、「当時ここにいたんですか?」と身を乗り出したら、「いや、おれは東京にいた」って。すごいんだよ(笑)。


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〈プロフィール〉
馳 星周(はせ・せいしゅう)

'65年北海道生まれ。'96年『不夜城』でデビュー、同作品で第18回吉川英治文学新人賞を受賞。'98年『鎮魂歌』で第51回日本推理作家協会賞を、'99年『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。著書に『ダーク・ムーン』『ソウルメイト』『アンタッチャブル』『神奈備』『蒼き山嶺』などがある。