2020年 特別企画
『パラ・スター〈Side 百花〉』『パラ・スター〈Side 宝良〉』
著者 阿部暁子さん インタビュー
2020年、オリンピック・パラリンピックイヤーを象徴するかのような作品が刊行される。阿部暁子さんの『パラ・スター』だ。車いすのエンジニアを目指す山路百花と、車いすテニスプレーヤーの君島宝良。ダブルヒロインを据えて、〈Side 百花〉と〈Side 宝良〉、それぞれのパートで描かれる物語は、スポーツ小説という枠組みだけでは語りきれない魅力に溢れている。二分冊というボリュームも気にならないほど、読み始めるとぐいぐい引き込まれ、しまいには読み終わるのがもったいなくなるほど。何より素晴らしいのは、『パラ・スター』は、全ての読者へのエールになっていることだ。今年度ベスト級の(と断言してもいい!)傑作『パラ・スター』は、どうやって誕生したのか、作者の阿部暁子さんにお話をうかがった。
- ──
- そもそも阿部さんが車いすテニスに興味をもたれたのは、どういうきっかけだったのでしょう?
- 阿部
- 今年2020年は、オリンピック・パラリンピックが自国開催されます。開催が決まったのは2013年ですが、あぁ、これはすごくいいことだな、なにかオリンピック関係のことを書けたらいいな、と当時から漠然と思っていました。オリンピックではなく、パラリンピックを題材にしたのは、ちょっと誤解を受けかねない言い方かもしれませんが、私の中で、障がいのある人に対する想いがひっかかっていた、ということがありました。例えば道を歩いていて、向こうから車いすの人が来た時に、小さくどきっとしてしまうことがあって。どうして自分はどきっとしてしまうんだろう、とか、そういう時にどうすればいいのだろう、とか、そういう想いが自分の中で“とげ”のようにあったんです。
- ──
- あぁ、おっしゃる感じ、わかります。
- 阿部
- それで、担当編集さんにオリンピックではなくパラリンピックに関する小説を書きたいのですが、と相談しました。その時は、パラリンピックのボランティアスタッフのことを書こうと思っていたのですが、プロットを練ろうとしても、形になっていかない。どうしてだろう? と考えた時、パラリンピックに対する自分の向き合い方の問題だな、と気づいたんです。もっと正面から、パラリンピックの競技そのものに向かい合わないとダメなんだな、と。ただ、そこで問題があって。
- ──
- 問題?
- 阿部
- はい。私はこれまで筋金入りの文化系人間だったんです。中高では吹奏楽部、大学では“一人引きこもり文芸部”みたいな感じで、スポーツとは無縁の人生を送ってきていたんですね。そんな自分がパラリンピックの競技を描けるのか、と。どうしよう、と悩んでいた2018年の夏の終わりごろ、地元でパラスポーツのイベントがあったんです。いよいよ開催が近づいてきたということで、元パラリンピアンの方をお招きして講演会をする、というものでした。その方は、パラ陸上の選手なんですが、その時に車いすの話が出たんです。パラスポーツでは車いすを使う競技もあるけど、競技ごとに車いすの種類が全く違う、競技の数だけ車いすの種類があるのだ、というお話をされたんです。えっ? 車いすってそんなに種類があるの? とびっくりしたんですね。そこで競技用車いすに興味をもったのが最初でした。
- ──
- 私も、今知りました。
- 阿部
- そこから、競技用車いすを作る人と、その車いすを使う人の話を書けたらと思ったんです。担当編集さんにそのことを話したら、それはいいですね、と。そこから徐々に形になっていった感じです。競技に関しては消去法というか、打算的な話になるのですが、車いすバスケなどのチームでプレーする競技は、運動経験に乏しい自分には手に余るんじゃないかと。チーム競技を文字で伝えるのは、自分には難しいんじゃないか、と思いました。テニスを選んだのは、母が持っていた『エースをねらえ!』というテニス漫画を読んで育ったので、テニスには親しみがあったというのがあります。ただ、お恥ずかしい話なんですが、国枝慎吾選手や、上地結衣選手といった世界トップクラスの車いすテニスプレーヤーでさえ、車いすテニスの話を書こうと決めてから知ったんですね。こんなにすごい方々がいるんだと知って、これは書けるかもしれない、という感触を得ることができて、そこから執筆にとりかかりました。
- プロフィール
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阿部暁子(あべ・あきこ) 岩手県出身、在住。2008年『いつまでも』(刊行時『屋上ボーイズ』に改題)で第17回ロマン大賞を受賞し、デビュー。著書に、『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』『戦国恋歌 眠れる覇王』、「鎌倉香房メモリーズ」シリーズ、『室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君』『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』などがある。
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吉田伸子(よしだ・のぶこ) 青森県出身。書評家。「本の雑誌」の編集者を経てフリーに。鋭い切り口と愛の溢れる書評に定評がある。著書に『恋愛のススメ』。
話題
沸騰!
- パラ・スター〈Side 百花〉
- 親友で車いすテニス選手の宝良のために、最高の競技用車いすを作りたい! その熱意とは裏腹に、焦りばかりが募る新米エンジニアの百花だが……。
3月
19日
発売
- パラ・スター〈Side 宝良〉
- 事故で車いす生活を余儀なくされた宝良。親友、百花の強引な誘いで車いすテニスと出会い、やがてパラリンピック出場を目標に掲げる。夢は叶うのか?
好評
発売中!
- 集英社文庫
阿部暁子さんの本
室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 - 南朝の姫君、透子は北朝に寝返った武士、楠木正儀を連れ戻すため京の都に向かう。宿敵、足利義満や、猿楽師の美少年・世阿弥との出会いを経て、彼女が知った広い世界とは?