命懸けで金を貸す意地悪ばあさんと
お転婆孫娘の大江戸バトル事件帖
お鈴は火事で両親を亡くし、金貸しの祖母お絹に引き取られた。看板描きの仕事をしながら、祖母の集金を手伝っている。ある日、袋物屋の茂兵衛が返済を延ばして欲しいと頼みにきた。お絹は鉞を握り、覚悟してお借りと言ったはずと断る。帰宅した茂兵衛は首を括って死んだ。だが、お絹は殺しだといい、お鈴が様子を探ることに……。命懸けで金を貸す江戸最強の意地悪ばばあとお転婆孫娘の痛快事件帖。
2023年4月20日発売
定価:660円(税込)
文庫判/256ページ
カバーデザイン/木村典子(Balcony)
イラストレーション/山本祥子
ISBN:978-4-08-744515-2
命懸けで金を貸す意地悪ばあさんと
お転婆孫娘の大江戸バトル事件帖
お鈴は火事で両親を亡くし、金貸しの祖母お絹に引き取られた。看板描きの仕事をしながら、祖母の集金を手伝っている。ある日、袋物屋の茂兵衛が返済を延ばして欲しいと頼みにきた。お絹は鉞を握り、覚悟してお借りと言ったはずと断る。帰宅した茂兵衛は首を括って死んだ。だが、お絹は殺しだといい、お鈴が様子を探ることに……。命懸けで金を貸す江戸最強の意地悪ばばあとお転婆孫娘の痛快事件帖。
作者のこれまでの作品群と比較してみても、きわめてユニークで毛色の変わった作品と言っていいのではあるまいか。したがって、「面白さ」の質も異なってはいるが、凛としていながらも「優しく温かい」という千野隆司の独自な色合いは、共通していることは言うまでもない。本作では、さらに読む者が思わず微笑んでしまうユーモアの味わいがほどよく加えられているのだ。そこに、千野ワールドの新機軸を、私は感じたのである。(中略)新鮮な切り口の三つの話がテンポ良く語られるさまは、名人の落語を聞くような心地良さがある。
爽快で、痛快で、ぴしっと筋が通っていて、それでいてちょっぴり切ない。これは気持ちのいい物語だ。
神田松枝町(現在の千代田区岩本町あたり)のお絹は、「鉞ばばあ」の異名で知られる。貸金業を営む彼女は、研ぎ澄ました鉞を手に返済を迫るのである。回収率100%。その孫娘のお鈴は看板描きの16歳。祖母とは真逆の心優しさだが、勇ましいところはお絹ゆずり。お絹とお鈴、そしてお絹の弟で田楽屋兼岡っ引きの倉蔵の3人が、江戸下町で起きた難事件に挑む。
さすが書下ろし文庫シリーズを牽引してきたベテランの新作だけに、気迫のこもった出来栄えとなっている。特に、鉞ばばあと孫娘のキャラクターは、工夫が見られ秀逸のひと言。経験豊富で世知に長けた祖母と、優しくて正義感に燃えた孫の世代を超えた組み合わせは、考え抜かれた趣向で、絶妙な味わいを醸し出している。貸金というハードな職業を通して、透かし見えてくる人々の生活を、得意のミステリー仕立てで紡ぎだして見せる手法は、健在である。
【著者情報】
1951年、東京都生まれ。國學院大學文学部文学科卒。出版社勤務を経て、90年「夜の道行」で第12回小説推理新人賞を受賞。2018年「おれは一万石」シリーズと「長谷川平蔵人足寄場」シリーズで第7回歴史時代作家クラブ賞「シリーズ賞」を受賞。『入り婿侍商い帖』など時代物人気シリーズの著書多数。