【本書について】
1992年に連続刊行した『女人源氏物語 全5巻』(集英社文庫)は、これまでに多くの方に手に取っていただきました。これは「源氏物語」を登場人物の女性たちの視点で描き直し、光源氏を浮き彫りにするという試みでした。

「源氏物語」が再注目されている今、改めて瀬戸内寂聴さんが紡いだ「瀬戸内源氏」の世界観をお届けしようと、本シリーズを“決定版”と銘打ち復刊する運びとなりました。
さまざまな現代語訳がある「源氏物語」ですが、人間の欲望と感情を描き切った本シリーズで、「源氏物語」がさらに面白く読めることをお約束いたします。

集英社 文庫編集部

【本書の特徴】

 カバーデザインを一新しました。カバー写真は、「源氏物語絵巻」を織物で表現した山口伊太郎の「源氏物語錦織絵巻」(ギメ東洋美術館 収蔵)です。精緻かつ大胆に表現された美しい織物をご覧ください。

 文字を1段階大きくして読みやすくいたしました。

 92年の初版刊行時の文庫解説はそのまま残しつつ、新たに豪華著名人による「決定版文庫解説」を収録しました。


作品に登場する主な女性たち

きりつぼのこう……源氏の実母。宮中のいじめにより病死。

ふじつぼ……源氏の義母。源氏との不義の子を産む。

むらさきのうえ……光源氏の妻のひとり。光源氏が幼少期に見初めて育て終生をともにした理想の女性。

あおいのうえ……源氏の最初の正妻。

ろくじょうのやすどころ……源氏の年上の恋人。強い嫉妬のあまり生霊となる。

ゆうがお……さんみの中将の娘。とうの中将の側室だったが、源氏が略奪。後に生霊にとりつかれて早く死ぬ。

おぼろづき……右大臣の末娘。姉は殿でんにょうざくていに入内前に源氏と密会し、それが露見し、源氏はへ。

あかしのうえ……たくの地・須磨で源氏と結ばれ、姫を産む。余生は六条院で。

おんなさんみや……朱雀帝の娘で源氏の正妻。柏木と密通し、不義の子・かおるを産む。

たまかずら……頭中将と夕顔の娘。美貌で宮中の人気を独占。

うきふね……薫と匂宮におうのみやに思われ、悩み抜き入水自殺を図る。

系図(画像をクリックすると拡大します)

 

内容紹介

千年の時を越えて読みつがれる華麗なる王朝絵巻「源氏物語」を、女性たちの声で描き直す「瀬戸内源氏」

本巻では比類なき美貌と知性を持つ宮廷一の貴公子・光源氏の誕生から、成長して出世していくさまを描く。亡き母の面影を慕い、年上の女性たちに魅かれる源氏は、ついに父帝の女御と一線を超えてしまい──。
「源氏ブーム」の火付け役・瀬戸内寂聴があなたを鮮烈な世界に誘う。

花の宴の夜、20歳となった光源氏は、16歳の朧月夜と出会い、恋に落ちる。だが、彼女は源氏の兄で時の天皇・朱雀帝に嫁ぐ身だった。この大胆な三角関係が発覚したことで、宮廷内で立場が悪化し、都落ちに。しかし、彼は流謫の地・須磨で18歳の明石と出会い、新たな妻として迎える――。

本巻では、若く美しい男女たちが激しく求め合う様を描く。愛の恍惚と苦悩がほとばしる「瀬戸内源氏」を象徴する一冊。

39歳の光源氏は、冷泉帝(藤壺との不義の子)により、天皇に次ぐ最高の地位を手にし、私生活では、広大な邸宅に紫上をはじめ、愛する女人たちを住まわせる。公私ともに栄華を極める彼だったが、ひとりの女人の登場で予想外の展開に――。

本巻では、年齢や立場、性格などさまざまな女人が登場し、「女性にとって真の幸福とは?」という現代に通じる問いに答える。原作にない独創性が光る、第三巻。

15歳の女三の宮が降嫁してからというもの、順風満帆だった光源氏は苦境に陥る。一方、頭中将の息子で31歳の柏木は、以前からの恋心が募り、ついに女三の宮と密通してしまう。その事実を知り、さらに悩む源氏。追い打ちをかけるように愛する紫上も世を去り――。

本巻では、下の世代の台頭と中年を迎えた源氏の苦悩、女人たちの諦観と決別を描く。恋と愛だけではない、人間の成長を切り取る、第四巻

最愛の妻・紫上を失った51歳の光源氏は精気を失い、やがて彼もこの世を去る。そして物語の主人公は、出生の秘密に悩む源氏の子・薫と、闊達で好色な孫・匂宮になり――。

本巻は、舞台を宇治に移した「宇治十帖」にあたり、次世代の若者たちの現代的な恋模様を描く。正反対の性格をした二人の青年と、彼らを愛する姫君たちが迎える衝撃の結末とは? 圧巻の第五巻。

【著者プロフィール】

瀬戸内寂聴(せとうちじゃくちょう)

1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終り』で第2回女流文学賞受賞。73年得度、筆名を晴美から法名の寂聴に変更。92年『花に問え』で第28回谷崎潤一郎賞、96年『白道』で第46回芸術選奨文部大臣賞受賞。98年『源氏物語』(全10巻)の現代語訳の完訳。2001年『場所』で第54回野間文芸賞受賞。06年度文化勲章受章。11年『風景』で第39回泉鏡花文学賞、17年朝日賞を受賞。著作多数。21年逝去。