2021年 新春特別企画 堂場瞬一さんインタビュー
聞き手・細谷正充さん
構成・文/宮田文久 撮影/織田桂子
- 細谷
- 一時期、「警察小説」という言い方の他に「警察官小説」という言い方がありましたね。要は、警察の組織にいるんだけど、個人で動くハードボイルド的な主人公として描く、という小説です。
- 堂場
- そうですね。一匹狼のような感じで人物が動くというのは、現実の警察組織としてはなかなかない。ゆえにフィクションの世界でやってみたいというのが、作家側の動機としてあるとも思います。
- 細谷
- 『雪虫』は、スチュアート・ウッズの『警察署長』に強い影響を受けているとお聞きしました。
- 堂場
- コンセプトとしては、たしかにありました。実際にはストーリーも構成も違った感じになったのですが。当時はまだ執筆枚数をそんなにもらえなかったですから……といっても、十分に長いんですけれど(笑)。
- 細谷
- 単行本で2段組みでしたよね。
- 堂場
- はい、2段組みでした。今でも覚えていますが、書き上げたときに714枚だったんです。いつだってもっと枚数は欲しいのですが、現在担当してくれている編集者に「1000枚くれ」といっても、きっと怒ることでしょう(笑)。
- 江口
- 当時の堂場さんを担当していたひとりとして振り返ると、堂場さんは本来的に今のようにいっぱい枚数を書くスタイルなのだということが、最初はわからなかったんですよね。
- 堂場
- そうですよね。僕は文芸誌の連載だと1回が50枚標準、全体で600枚くらいを標準にして本にするんですが、これは日本だと多いほうなのだと、やっと最近気づきました(笑)。海外のミステリーは長いですから。
- 江口
- 私だけでなくおそらく他社の編集者も、堂場さんの大河小説作家のような志向と資質には、初期はなかなか気づけなかったのではないか、と思います。
- 細谷
- その後いくつものシリーズを手がけられるようになる端緒が、〈刑事・鳴沢了〉シリーズ第1作の『雪虫』であるわけですが、当初は1作で完結するつもりで書かれたそうですね。
- 堂場
- 新人作家に最初からシリーズで書いてくれという依頼はなかなか来ませんし、僕自身もとりあえず終わらせるつもりではありました。
- 細谷
- そこから改めて、同じキャラクターで続編を書いてほしい、という依頼があったんですか?
- 堂場
- いや、そこが僕のいやらしいところで(笑)。『雪虫』のラストにかかわるので詳細は伏せますが、続編が書けるような年齢設定に、きちんと計算してあるんですよ。舞台となる土地を移すということも、続編の依頼が一切ない段階から頭にはあったんです。スケベというか、精一杯よくいえば“企み”があるんですよね(笑)。
- 細谷
- そこからシリーズ化していき、徐々に他の警察小説シリーズへの依頼にもつながっていったんですね。
- 堂場
- 一気に増えたのは、体感としては2010年代に入ってからですが、スタート地点は確実にこの時期ですね。
- 細谷
- 〈捜査〉ワールドが始まるのが2013年ですね。他のシリーズを含めて、作品群ごとに違いを出すというのも、当然意識的にされていますよね。
- 堂場
- はい。たとえば主人公の人物像ですね。年齢を変えるといったことはもちろんのこと、おそらく今年は女性の主人公を初めて書くことになると思います。

- プロフィール
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堂場瞬一(どうば・しゅんいち) 1963年茨城県生まれ。青山学院大学卒業。会社勤務のかたわら執筆した「8年」で第13回小説すばる新人賞受賞。スポーツ青春小説、警察小説の分野で活躍中。著書に『いつか白球は海へ』『検証捜査』『複合捜査』『解』『共犯捜査』『警察回りの夏』『オトコの一理』『時限捜査』『グレイ』『蛮政の秋』『凍結捜査』『社長室の冬』など多数。
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細谷正充(ほそや・まさみつ) 1963年埼玉県生まれ。時代小説とミステリーを中心に、文芸評論家として活躍。著書に『必殺技の戦後史』『少女マンガ歴史・時代ロマン決定版 全100冊ガイド』『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』、編著に『くノ一、百華』『きずな 時代小説親子情話』『時代小説傑作選 土方歳三がゆく』など。
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江口洋 堂場さんの元担当編集。
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出島みおり 集英社文庫編集長
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集英社文庫の堂場瞬一作品。刊行順は下段→上段、左→右。一番初めの『8年』は2004年刊。
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文庫化を控えている単行本作品。『ホーム』は19年ぶりに書いた『8年』の続編。