「昌俊、そなた……」 「策がないわけではない。それをこれから話したいが、聞いてもらう以上、後には戻れぬぞ。それでもよいか」 「わかった。そなたがそこまで申すならば、それがしも肚を括(くく)ろう」 信方は真剣な眼差しで同輩の顔を見つめる。 原昌俊は己が思いついた策を語り始めた。 その頃、跡部信秋は飯田虎春(とらはる)の屋敷に向かっていた。信方の屋敷を出た後、手下に指示を飛ばして各所に向かわせてから、土屋一派の寄合に向かったのである。 ――誰かに任せることもできたが、ここは自身で様子を見たほうがよかろう。何か動きがあるとすれば、切り崩されている方からだろうからな。 そのように思ったからだ。 飯田虎春の屋敷に入った跡部信秋は気配を消し、末席に座る。その視界に飯富虎昌の姿が入って来た。 ――飯富殿もこちらに来ていたか。おそらく、晴信様のための様子見であろう。 跡部信秋の着席に気づき、飯富虎昌も小さく会釈した。 そこに飯田虎春が現れ、一同を見廻す。参加者の頭数を素早く数えるような仕草だった。 それから、寄合についての口上を述べ始める。 「……御屋形様の留守中に、この新府で妙な動きをしている者どもがいる。ここに集まった皆はわかっていると思うが、土屋殿が次なる家宰として戻られた途端、そのような者どもは厳しい詮議を受け、処罰されることは眼に見えている。それゆえ、そなたらからこの場を欠席している者たちにも伝えてほしい。われらの寄合以外に参じた者は謀叛人も同然の扱いを受けかねぬと。今ならばまだ考えを改め、戻ることが許される」 どうやら飯田虎春は青木信種や駒井信為(のぶため)の切り崩しに苦慮しているようだった。 この後もくどくどと離反に対する処罰について述べ、結局、さして実りもなく寄合は終了となる。 前の合戦の褒賞について何か報告があるのではないかと思っていた者たちが、憮然(ぶぜん)とした面持ちで寄合の場から去って行く。 その中で、飯田虎春が飯富虎昌の姿を見つけて歩み寄る。 「飯富、来ていたのか」 「はあ、お誘いがありましたので」 「さようか。されど、そなたは青木殿の寄合にも顔を出していると聞いた。それはまことか?」 「どなたからお聞きになられましたか」 「誰でもよいではないか。それよりも、向こうの寄合にも行ったのか?」 「ええ、まあ。向こうからもお誘いを受けましたので。われらの如(ごと)き末の者は声を掛けていただくだけでありがたく、家中の様子もわかっておりませぬので、両方からお誘いがあれば、とりあえず顔を出さねばと思うてしまいまする。青木殿の寄合では、酒肴(しゅこう)なども配られたりしますゆえ、それだけでもありがたく。いけませんでしたか?」 飯富虎昌はとぼけた口調で聞き返す。