よみもの・連載

『パラ・スター』著者・阿部暁子×車いすテニス・大谷桃子選手 対談

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ヒロインのひとり、宝良は交通事故で車いす生活になり、さまざまな葛藤を乗り越えて車いすテニスプレーヤーとして活躍していきます。大谷選手もインターハイ出場を経験し、その後車いすテニスプレーヤーに転向されたわけですが、読まれた感想はいかがですか?
大谷
宝良ちゃんがあまりにも自分と重なる部分が多くて、もう涙、涙で読ませていただきました。テニス選手だった宝良ちゃんが事故で脊髄損傷になって車いすテニスを初めて観た時に、「あんなの、テニスじゃない」って思ったシーンがありましたよね。私は病気で障害を負いましたが、それは私も実際に感じたことでした。自分も体験会に参加したあと、すぐに車いすテニスをやろうと思えなかったのは、自分が知っているテニスと違うと思ってしまったからなんです。そこがすごくリアルで、泣けてしょうがなかったです。
阿部
実は書く時も、書き終わってからも、ずっと怖いと思っていたんです。何が怖いかって、自分の捉え方が間違っていないか、無神経なんじゃないか、本当は何もわかってなくて書いているんじゃないかって……。踏み込んだ内容なので、ずっと心に残っていて。なので、今そう言っていただけて私も胸がいっぱいです。
大谷
私もテニスを小学生で始めて、高校ではインターハイに出場して、そのあと裏方に回ろうと思ってトレーナーを目指しながら、テニスクラブでアシスタントコーチとかをやっていました。でも、そのアシスタントコーチを始めた数カ月後に病気で車いすになって、テニスを離れることになって……。テニスだけの人生を過ごしてきたから、テニスがなくなって、本当に何をしたらいいのかわからなくなってしまった。それが原因で引きこもった時期もありました。作品を読んでいて、自分そのものだなって思っていました。
──
阿部さん、そのシーンはどういうふうに作っていったか覚えていますか?
阿部
私、根っからの文化系でスポーツの経験がまったくないんですよ。ただ、自分にとっての小説が、たぶん宝良にとってのテニスなんだろうなと考えました。私には小説しかなくて、もし小説を書けなくなるとしたら、きっと物を考えられなくなるということだろうなと。その時に、周囲の人に「代わりにこういうのもあるよ」と言われても、「そうじゃないんだよ」ってすんなりいかない気持ちがあるだろうと思ったので、その通りに書きましたね。
大谷
私、<Side百花>にある宝良ちゃんの『それができないならもう何もいらない。代用品なんか私はほしくない。こんな身体も人生もいらない。テニスができないなら何の意味も価値もないから』という言葉のところに、付箋を貼(は)っているんです。車いす生活になって、すごく悲観的になって、このセリフをそっくり母に言っていて。八つ当たりしてしまったんです。母もやっぱりショックを受けていましたし……。あぁ、今でも泣けちゃうな。それが本当に申し訳なかったなと思うし、今は車いすテニスを頑張って結果を残すことが、その時の償いになるのかなと思っていて。辛(つら)い時はそれを考えるようにしています。
阿部
あぁ、私も泣きそうです。
プロフィール

阿部暁子(あべ・あきこ) 岩手県出身、在住。2008年『いつまでも』でロマン大賞を受賞し、デビュー。著書には、『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』『戦国恋歌 眠れる覇王』『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ、『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』がある。

大谷桃子(おおたに ももこ) 1995年8月24日生まれ、栃木県出身。小学3年生からテニスを始め、高校ではインターハイに出場。2016年からは車いすテニスに転向し、2020年には初めてのグランドスラム(世界四大大会)となる全米オープンに出場。続く全仏オープンでは女子シングルス決勝に進出した。今年の全豪オープンはベスト4。東京2020パラリンピックに初出場。

話題
沸騰!

パラ・スター〈Side 百花〉
親友で車いすテニス選手の宝良のために、最高の競技用車いすを作りたい! その熱意とは裏腹に、焦りばかりが募る新米エンジニアの百花だが……。

話題
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パラ・スター〈Side 宝良〉
事故で車いす生活を余儀なくされた宝良。親友、百花の強引な誘いで車いすテニスと出会い、やがてパラリンピック出場を目標に掲げる。夢は叶うのか?

好評
発売中!

集英社文庫
阿部暁子さんの本

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君
南朝の姫君、透子は北朝に寝返った武士、楠木正儀を連れ戻すため京の都に向かう。宿敵、足利義満や、猿楽師の美少年・世阿弥との出会いを経て、彼女が知った広い世界とは?