よみもの・連載

『パラ・スター』著者・阿部暁子×車いすテニス・大谷桃子選手 対談

阿部
あと、『パラ・スター』の<Side 宝良>で、試合中に車いすが故障して、スタッフが来て直すというシーンがあるんですが、取材したジャパンオープンでそれが本当に目の前で起こったんですよ。安さんがバッグを担いで走ってコートに入ってきた。あの緊迫の場面で、何がどうなっているかもわからない状態で、瞬時に車いすの状態を見て、どうにかして試合を再開させたというのがすごく印象的でした。
大谷
試合中の車いすの故障は結構あるんです。私の場合はパンクが1回で、あと腰の樹脂系ベルトが根元から折れちゃってエンジニアさんを呼んだことがあります。その場でスペアに付け替えてもらい、しのぎました。
阿部
えっ、ベルトって折れるんですか? 書く前に聞きたかった!(笑)。ジャパンオープンで会場のリペアのところにも行きましたが、現場であんまり話しかけると邪魔しちゃいそうなので、作業テント前を何回も通り過ぎながらチラ見して、ぐるぐる回って写真を撮って、すごい不審者だったと思います(笑)。車いすの調整を依頼する人、ただおしゃべりをして帰っていく人もいて、興味深かったです。
大谷
リペアのテントに来る7割は、お話がしたい人です(笑)。私は人使いが荒いので、何かあるとすぐエンジニアさんに連絡して、「いついつに来てください」ってお願いすることもあります(笑)。
阿部
そういう呼び出し方もあるんですね! それも書きたかったな〜。

■主人公・宝良のモデルは実は……!?

大谷
実は対談が決まってから、ずっと先生に聞きたいことがあったんです。宝良ちゃんのテニス人生や心情の描写が「自分だ」と思ったんですけど……。
阿部
そうなんです……、実は大谷選手を宝良のモデルにさせてもらっています。
大谷
そうなんですね! やったぁ! すごくうれしいです。すごく親近感を抱きながら読んでいたんです。通っている整骨院とかあちこちに本を持って行って、ページを開いて「ここ、本当に自分に似ているんだけど、モデルは自分ですかって聞いてみていいですかね」って相談したりしていました(笑)。
阿部
大谷選手はこういう性格なのかなとか勝手に想像して。本当にすみません! 大谷選手と対談をするという話を編集担当さんからもらった時に、私の動揺の仕方が本当にすごくて。「大谷選手を宝良のモデルに勝手にしているんですけど、ぜったい怒られますよね、嫌われますよね」って。
大谷
そんなことありません(笑)。すごくうれしいです。
阿部
本当に大谷選手のおかげで書けた部分が大きいので、怒られなくてよかったです。試合を生で色々見て、印象に残る場面がたくさんあって、それが原動力になって書けたので、ありがとうございます。大谷選手のこと、本当にひたすら応援しています。これからも、世界を突き進んでいっていただきたいです。いやもう、親戚のおばちゃんみたいな気持ちになっているんですけど(笑)。
プロフィール

阿部暁子(あべ・あきこ) 岩手県出身、在住。2008年『いつまでも』でロマン大賞を受賞し、デビュー。著書には、『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』『戦国恋歌 眠れる覇王』『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ、『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』がある。

大谷桃子(おおたに ももこ) 1995年8月24日生まれ、栃木県出身。小学3年生からテニスを始め、高校ではインターハイに出場。2016年からは車いすテニスに転向し、2020年には初めてのグランドスラム(世界四大大会)となる全米オープンに出場。続く全仏オープンでは女子シングルス決勝に進出した。今年の全豪オープンはベスト4。東京2020パラリンピックに初出場。

話題
沸騰!

パラ・スター〈Side 百花〉
親友で車いすテニス選手の宝良のために、最高の競技用車いすを作りたい! その熱意とは裏腹に、焦りばかりが募る新米エンジニアの百花だが……。

話題
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パラ・スター〈Side 宝良〉
事故で車いす生活を余儀なくされた宝良。親友、百花の強引な誘いで車いすテニスと出会い、やがてパラリンピック出場を目標に掲げる。夢は叶うのか?

好評
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集英社文庫
阿部暁子さんの本

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君
南朝の姫君、透子は北朝に寝返った武士、楠木正儀を連れ戻すため京の都に向かう。宿敵、足利義満や、猿楽師の美少年・世阿弥との出会いを経て、彼女が知った広い世界とは?